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  Happy White Day


「はい、トウヤ」

 と差し出された小さな箱は、青い包装紙に白いリボンが巻かれ綺麗にラッピングされていて。
 僕がさいしょに思ったのは、そういったものをNが手にしている違和感がすごいな、ということだった。そんなあさってなことを思うぐらいにはこんらんしていた。

「ど、どうしたの、それ…?」
「今日は先月のお返しをする日なのだろう?」

 そのことばにますます動揺してしまった。先月の、というのはつまりはバレンタインデーのことを指しているんだろうけど、確かに僕はその日、悩みに悩んで三種類くらいチョコレートやらキャンディやら甘いお菓子を目の前の人にプレゼントした、けれど! 当然ながらそんなイベントを知らないNは、これはトモダチが食して糖分過多にならないだろうか…なんて神妙な顔をしていた。抜かりなくポケモンも食べられるものを用意していたから、みんなで仲良く食べた、わけなんだけど。それで満足していて、まさかお返しがもらえるなんて、僕は夢にも思っていなかった。

「メイとキョウヘイから聞いたんだ、先月のこと。…すまない、ボクは何も理解していなかった…」
「い、いやそんな謝ることじゃないからね! 僕も何も言わなかったし…」
「…そうだね、何故キミも話してくれなかったのかは不可解なんだが」
「え、えーっと……N、ああいうイベントごとに興味ないかなって思って……」
 急に厳しい視線を向けられてどんどん声が小さくなってしまった。
「確かにボクはヒトの文化に疎い。けれど、この世界で生きる以上そうも言っていられないだろう。特に、キミが関わることなら知りたいよ。…次からはきちんと話してくれたまえ」
「…ご、ごめんなさい…」

 メイちゃんたちからどう聞いたかはわからないけど、まさか怒られるとも思っていなかった。どういう日なのか知らなくても、君がおいしそうに食べていたから、僕はほんとそれでよかったのだけれど。Nとしては行為に意味があるのならちゃんと知りたかったようだ。反省しなきゃいけないな。

「…それでトウヤ、これは受け取ってくれないのかい」
「あ……」

 依然Nの左手にはそれが納まっていて、改めてそのプレゼントの意味を理解すると、僕はもう胸の奥も目頭も熱くなってしまって、ことばが出ない。すんなりともらってくれない僕に不安を覚えた様子のNすら珍しくて、こんなことがあっていいんだろうかと思う。だってNという人から僕がもらったものは計り知れないけれど、こんな風に物を贈られたことは初めてなんだ。メイちゃんはわざマシンをもらったって言ってた気がするけど、そのことだってあのNが…と感慨深かったのに。彼女と仲良くなって、色んなことを教えてもらって、また少し変化していったNが、今こうして僕にお返ししようとしていること。何だか再会したあの日を思い出して、鼻の奥がつんとする。何とかこぼれそうになるのを堪えて、ようやく箱ごとNの手を両手で包んだ。

「…ありがとうN、すごく、嬉しいよ」

 なんてありきたりなせりふしか出てこなくて、けれどNもうんと頷いて微笑んで。きっと今日という日にありふれたワンシーンかもしれなくても、間違いなく僕は今イッシュでいちばんしあわせだろうなあと、ゆだったこころが思ったのだった。




190314

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