Bridge
久々のヒウンシティは相変わらず人が多い。だが数年前、自分たちが初めてこのイッシュ地方へと駆け出したあの頃とは、いろいろと変わっていた。隣接する4番道路はまるで知らない土地のようになっていて少し迷ってしまったし、いつの間にかヒウンアイスが曜日でなくても買えるようになっていて、せっかくだからとふたりで味わったりした。
「はあー…間に合ってよかったね…」
「そうだね…こんなに走ったのはいつぶりだろうか…」
今日のふたりの目的は、ヒウンの港より乗れるロイヤルイッシュ号だった。船に乗ったことがない、とNが言うのでじゃあ行ってみようよ、とトウヤが誘ったのだ。時間に厳しい船だから余裕も持っていこうね、と今朝がた話をしていた。しかし肝心のNがこの街で人酔いをしてしまい、ゆっくり休んでいたら危うく遅れそうになったわけだ。
「…N、大丈夫?気分悪いのぶり返したりしてない?」
「ああ、もう平気だ。心配かけてすまなかったねトウヤ……それより」
これが船というものなんだね!とイキイキし出したNに、思わずトウヤは笑ってしまった。形がどうだの動力がどうだの周りを見回しながらぶつぶつと呟くNが、元気ハツラツの興味津々の意気揚揚で何よりだ。周囲に他に人がいなくて助かったな…とも、こっそり思う。
この船のコースは決まっている。どこか遠くまで運ぶのではなく、ヒウン港をぐるりと回って帰ってくるのだ。中間地点であるスカイアローブリッジに差し掛かり、ふいに橋の方を見上げると、先ほど向かう途中でうっかりぶつかってしまったふたりが海を眺めていた…ように見えた。遠いので、確かではないけれど。
「ねえねえN、もしかしてだけどあそこにいるのって…」
「…ああ、先ほどの人たちだね」
「わかるの!?」
「?うん。仲睦まじいね」
「…そうだね」
思い返せば見た感じがちぐはぐなふたりだったけど、まあ自分たちもはたから見たらそうなのかもしれない。ということはあの人たちもいい友達なんだろう、きっと。
「…ねえトウヤ、今度は朝か昼に乗りたいな」
「…ふは、もちろんいいけど、そんなに気に入ったの?船」
「そうだね…それもあるが、夜だと海にいるポケモンたちが見えづらいからね…」
「ああー…」
それは盲点であった。確かにすっかり日は沈んでいて、夜の海は恐ろしくなるほど暗い。うっすらと鳴き声は聞こえるが、目のいいNでもさすがに姿は見えずもどかしいらしい。
「…じゃあさ、今度はダイビングしようよ。それなら直接海のポケモンたちと触れ合えるだろうし、夏だからちょうどいいや」
「…!なるほどその手が…!」
「ここらへんはわからないけど、サザナミとかセイガイハならやってるんじゃないかな、ダイビング……行く?」
「うん…!」
嬉しそうに声を弾ませるすがたは子どもみたいで、我ながらいい提案を思い浮かんだな…とトウヤは悦に入った。
「なら水着買いに行かなきゃなあ」
「え?裸じゃダメなのかい?」
「…ダメに決まってるでしょー!」
明日もまた騒がしく、楽しい一日になりそうだ。
愛するフォロワさんに捧げました!
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