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  Hello, New Region!


汽笛が鳴る。続いてアローラ地方までもう少しである旨のアナウンスが流れた。長かった船旅もこれまでだ。

Nはデッキに立ちながらひたすら進む先を眺めていると、ふと、空から声が聞こえた。見上げれば見たことのない鳥ポケモンたちが数羽こちらに降り立ってきた。これはチャンスとばかりに話しかける。

「やあ。キミたちはアローラから来たのかな?」
するとポケモンたちは驚いたように飛び去って行ってしまった。

「……」
「ただいま、N。…どうしたの?」
トイレから戻ったトウヤがNの浮かない表情に気付いた。
「ああ、おかえりトウヤ。彼らと会話を試みたんだが上手くいかなかったんだ」
小さな個体もいたから、警戒されてしまったんだろうね。と残念そうに語ると、
「あー…まあ、島についたらポケモンたちもたくさんいるだろうから、話はそれからでもいいんじゃない?」
次の機会はいくらでもあるよ、と慰められた。
「…うん、そうだね」

風が吹きあがり波が揺れる。太陽のひかりが反射しキラキラと輝かしい。波の飛沫も潮のにおいも海の色も、イッシュのそれと同じようでやはりどこか違う。帽子を飛ばされないよう押さえながら、思う。

「ね、N。もうすぐだね」
「ああ」
「まずはどこ行こっかな〜」

と言いながらトウヤはバサバサとパンフレットを広げた。「こんなところで広げて、飛ばされたらどうするんだい?」と聞くと、「しっかり掴んでるからだいじょーぶ!」とのことだった。
少しくしゃくしゃになったパンフレット兼地図にはいくつか印が書き込まれている。トウヤの文字で『ここは行く!』、Nの文字で『ここが気になる』、といったコメントは、船室の揺れるベッドの上で話しながら記したものだ。それらを一つ一つなぞりながら確認していく。

「そういえばさ」
「うん」
「イワンコやっぱかわいいなって言ったら、リーに怒られちゃったんだよね」
「ムーランドとは付き合いが長いのだろう?それも当然だね」
「乗り換えようとかちっとも思ってないんだけどなあ。思わずごめんって謝っちゃった」
「ふふ。…そういえば、カロス地方のミアレシティを覚えているかい?」
「ミアレ?……ああ!ゴーゴートのこと?」

Nに言われてトウヤも思い出したようだ。カロス地方の中心都、街中が広く混雑しているミアレにはゴーゴーシャトルという交通機関があった。ゴーゴートが利用者を背に乗せ目的地まで運んでくれるシステムだ。よく訓練されているゴーゴートはしかし強制させられているわけでもないようで、Nも感心したものだ。せっかくだから利用しようとすると、トウヤのゼブライカが自分に乗ったらいいじゃないかと言ってきたのだった。

「さすがのシーマも僕とNの2人を乗せるのは大変でしょって言ってなだめたね」
「悔しかったのだろうね。キミは本当にあの子たちに好かれている」
「…うん」

Nが一緒に旅をするようになってから何度も言っていることであるが、それでもトウヤは嬉しそうに照れくさそうに笑った。

「ポケモンとか施設とかも気になるけど、名物も気になるなあ」
「食べ物?」
「うん。…お腹減ってきたせいもあるけど、このマップに載ってるやつめちゃくちゃ美味しそう…」
「じゃあ着いたらまずは何か食べようか」
「賛成!」

前方から徐々に島が見えてきた。周りにいる人間がおおーっと声をあげたり写真を撮ったり賑わってきている。それらを横目に話は続く。

「名物といえば、キンセツのちゃんぽん美味しかったなあ…」
「ホウエンの?」
「そうそう」

今度はトウヤに言われてNが思い出す番だった。ホウエン地方のアーケード街であるキンセツシティ。そこの大きなフードコートで席に座ったときに、突然バトルを申し込まれて驚いた。座りたいのならバトルで勝つしかない、どうもそういうしきたりがあるらしい。しかしNの手持ちは室内でバトルするには向いていないポケモンが主だ。故に、交渉を仕掛けても聞く耳を持ってはくれなかった。仕方なくトウヤに代わってもらったのだった。

「周りにお客さんいっぱいいるし、時間制限あるし、あそこでのバトルはちょっと大変だったけど、ちゃんぽんは美味しかったよね。コクがあって」
「うん。初めて食べたけれど確かに味わい深かった」
「あとあれ、ビレッジサンド売ってるのすごく感動した…」
「だいぶはしゃいでいたよね、キミ」
「いやだってまさかあんなとこで売ってると思わなかったからさ…ミールたちも喜んでたし…」

懐かしの味、というほど親しんでいるものでもないが、それでもイッシュの名物の一つが他地方で売られていたことは嬉しかったのだ、とトウヤは言う。手すりにもたれながら空を見上げる横顔はどこか寂しそうだった。

「でも、本場のも久しぶりに食べたいなあ」
「…これから新しい地方に行くのに?」
「…ね」

変な話かもしれないけどさ、これから新しい地に踏み出すってとき、一番わくわくするそのときに、一番故郷に帰りたくなるんだ。遠くを見る目をしながらそう語るトウヤに、Nはああ、と静かに頷いた。イッシュを出てからたくさんの地方を回ってきたけれど、いつも胸に刻まれた思い出がついつなげて考えてしまう場所がある。育った城は崩れてしまったが、自分にもそのようなものが確かにある。イッシュ地方全体を故郷であると、ボクも呼んでいいのだろうか。「そんなの、いいに決まってるじゃん!」と隣にいる彼はいつだかに笑ってくれた。Nはそれが何よりも嬉しかった。だから、

「トウヤ」
「なに?」
船がスピードをどんどん緩め、そして止まった。いよいよ今回の旅地に着いたのだ。

「楽しみだね」
「うん」
「どこに行こうと、どういうときでも、キミがいるなら、ボクはそう思えるよ」
「…っ、え、えっ!?」
「ああ、そろそろ降りてもよさそうだね。行こうか、トウヤ」
「………」
「トウヤ?」
「…なんでそういう爆弾を落とすかなあ…」

両手で顔を覆うトウヤは、時々こういう仕草をする。何故そこで頬を赤らめるのかはいつもわからない。まだまだわからないことはたくさんある。これだけ一緒にいても、たくさんの時間を過ごそうと、様々な地方を旅して知識や体験が身につこうとも。広がっていく世界はいつも未知の数式が溢れていて、理解出来なくて、それに恐怖も感じてもやはり進みたいと思う。あの城でトウヤと向き合った、6年前のあのときから。

「はあー…」
「大丈夫かい?」
「…大丈夫!行こう、N!!」
「うん…!」

どんなポケモンが、ヒトが、冒険が待ち受けているだろう。これからまた新しく始まる旅が、どうかよきものになりますように。



Happy Birthday SUN and MOON!!
161118

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