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  The New year


マメパトが鳴く声が聞こえる。ゆっくり目を開けると天井が映る。身体を起こすと紫色の毛布が肩からずり落ちた。テーブルの上には置きっぱなしのコップが二つ。ゴミ箱にはお菓子の袋なんかが入っている。床に敷かれたカーペットは少しずれていて、テレビの前にはWiiリモコンが雑に置かれている。どこを見ても見慣れた、それでいて懐かしさも覚える自室だ。
そして窓辺からは朝日が差し込んでいる。……朝日?

「……えっ!?」
「あ、トウヤ、起きたのかい」
トウヤが声を上げたのとNが階段から上がってきたのはほぼ同時だった。

「おはよう」
「お、はよう。ねえN、まさか、…年、明けた?」
「そうだね、7時間ほど前に明けたよ」
「…うそ」
「本当だよ、ほら」

Nはテーブルに置かれていたライブキャスターを手に取り、トウヤに見せる。寝ぼけ眼をこすって見つめた画面に表示されている時間は、最後に確認したときより確かに、けっこうに進んでいた。

「いつの間にか寝ちゃってたんだ……」
「うん。ボクがトイレに行ったのは覚えているかい?帰ってきたらすでに眠っていたよ」
「あー……起こしてくれたら良かったのに…」

膝を抱えて俯く。これは、とても地味なショックだ。
数日前、つまり去年(という認識はまだ持てないが)の年末からNを連れてカノコタウンに帰省していたトウヤは、初めてNと年を越す、ということに少々浮かれていたし、ワクワクしていた。Nと一緒にすることならば大抵は何でもそうであるが、年越しという年に一度しかないイベントを共に過ごすことは、更に嬉しいことであったのだ。
久しぶりに帰ってきた息子たちをもてなしたり大掃除をしたりして疲れて先に寝てしまった母を起こさないようにあまり騒がずに、Wiiで対戦したり、ココアを飲んだり、こっそりお菓子を食べたり、この一年であったことを話したりしながら二人でそのときを待っていた。のに。年が明ける前に明けた瞬間に色々と言いたかったことがあった。のに。――寝てしまった。大したことではないかもしれない、がやはり地味なショックだ。

「キミが気持ちよさそうにしていたから、起こすのは忍びなかったんだよ」
「うん、Nならそういうと思った…けど、起こしてほしかったな…」
「す、すまない。そこまで落ち込むとは思わなかった」
「…ううん、寝た僕が悪いし、もういいや」

新年早々いつまでも凹んでいたって仕方ないか。それよりも。トウヤは顔を上げて、ベッドの端に座っていたNと視線を合わせた。寝癖でいつもより跳ねている緑の髪、母が買った専用のパジャマ姿のまま、まだ少し申し訳なさそうにしている顔を見ていると、何だかいろんなおもいが込み上げてくる。

「N、明けましておめでとう。…今年もよろしくね」
「! うん……!今年もよろしく、トウヤ」

そっと手を差し出して、握手をした。照れくさくて、恥ずかしくて、だけど、ちゃんと言えてよかった。『今年もよろしく』。短い言葉に込めた気持ちは伝わっているだろうか。彼のことだから、わかってなさそうだけど、それでもいい。同じ言葉が返ってきたから、それだけで嬉しかった。

N。
今年もよろしく。
今年も僕と、ポケモンたちと一緒に、旅を続けよう。


Happy New Year!




このあと手元ポケたち一匹一匹にことよろハグをしていったら
そのノリでNさんに抱きしめられて元日が命日になりかけたトウヤくんです
今年もこんなんです、よろしくお願いします
150101


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