ONSEN
白い上着、続いて黒のインナーも脱ぎ捨てる。実際捨てたわけではないが、勢いがそういった感じであった。最近少し日に焼けた肌が惜しみなく晒され、萌黄色の長い髪の毛がバサッと跳ねる。間もなく下の方も脱いだNは全裸になった。
一連の行為を呆然と見ていたトウヤはまだ上着すら着けたままだった。それを不審に思ったらしいNが、目的地に向かう足を止めて問いかける。
「トウヤ?入らないの?」
「……N、躊躇なく脱いだね」
「いけないのか」
「いや、何かいっそかっこいいよ…」
この大自然の中であの脱ぎっぷりは見事なものだった。男前と言うか野性的と言うか、ちょっと恥ずかしいと思っていた自分自身に恥ずかしくなるほどだ。
自分も観念して脱ぐか、いやその前に。
「N、そのままだと風邪引いちゃうから、待ってないで先入ってていいよ」
「わかった」
Nを見送ってから、トウヤは上着のファスナーに手をかけ始めた。
事態は単純なことだ。初めて訪れた山の中でさまよっていると、道が開けた先に自然の温泉があったのだった。ちらほら野生のポケモンたちが気持ちよさそうに入っている。
疲れているし、せっかくだから、汗やら土埃やらで汚れた体を洗ってく?と軽い気持ちで提案したトウヤに、じゃあそうしようかとNは応じた。
共に旅を始めて、一緒に公衆トイレなどに入ったことはあれど一緒にお風呂はなかった。あるはずない。故に自分で言っておいてためらったトウヤの前で、何の迷いも見せずに露出したのがNである。
(Nってほんとすごいよな…何がどうとは言えないけどすごいや……)
吹っ切れたトウヤは脱いだあとに自分の荷物とNの服をまとめて、それからボールからポケモンたちを出した。
温泉入れそうだったら入ってーと声をかけると各々飛び出していったので、その後を追っていざNの待つ温泉へと向かっていった。
何だかんだでワクワクしている自分に苦笑いしながら。
140821
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