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  決意


夜遅くに宿場町に戻り、久しぶりの我が家が見えたそのとき、ミジュマルが倒れた。
キュレムが現れたときなみに心臓がヒヤッとしてすぐさま駆け寄ったが、ミジュマルは寝こけていただけだった。
ホッとしながら、少し呆れながら背負おうとしたら、おまえはまだ本調子じゃないだろ、と言ってエモンガが家の中まで運んでくれたのだった。

「あなたのこと、眠らずに看病していたのよ」と、ビリジオン。
「おれ達がやるって言っても聞かなかったから無理やり交代させたんだが」と、ブラッキー。
「それでもずっとあなたのそばにいたのよね」と、エーフィ。
「エモンガ、ミジュマルさん大丈夫?」と、ノコッチ。
「寝てるだけだ。ったく、だから根詰めるなってあれほど言ったのに…」と、エモンガ。

「(ミジュマル…ごめんね)」

心配かけさせてしまったことを申し訳なく思う。
今も耳に残っているのは、キュレムの重く冷たい声ではなく、ミジュマルの悲痛な叫びだった。

『―やめてくれ!』
『ボクの大切な友達なんだ!!』

何度も踏み潰され、ここで死ぬのだと諦め、飛びそうになってた意識を引き戻した言葉だった。

大切な、友達。
自分にとってもそうだった。
わけもわからぬまま訪れたこの世界で出来た、何よりも大切な友達。
そうだ、ミジュマルとずっと一緒にいると約束したのだ。死ぬわけにはいかない。

皆の手当てはもちろんだが、ミジュマルの言葉によって引き起こされた強い思いが、自分を生かしてくれたと思う。

死にたくない、生きたい。
その思いは同時に強い恐怖をももたらした。
キュレムに立ち向かったら今度こそ潰される。そしていつか宿場町の丘で見た光のように消えてしまうのだ。ミジュマルを残して。

嫌だ、怖い、死にたくない、戦いたくない。
このまま…このまま、世界の滅亡を受け入れた方が楽じゃないか。皆一緒に死ねるなら、いっそその方が、とまで考えた。
キュレムの話で議論していたとき、一番後ろ向きだったのは間違いなく自分だろう。

『ミジュマル!おまえはどうなんだ?』
エモンガの問いかけにドキッとした。そしてその受け答えに驚愕せざるをえなかった。

『ボクは…納得出来ない!』
『大切なみんなを失うことを受け入れられないよ!』

零れ落ちる言葉と、涙。
恐れながら、震えながら、どうすればいいのかわからぬまま、それでも彼はキュレムが予知した未来を拒否した。
キュレムの圧倒的な力を目にして、負の意識がこの世界に蔓延っていることを知ってなお、諦めなかった。
何故ならば。
答えは単純だ。皆見失っていた。自分でさえ。

大切な仲間を、失いたくない。
大切な仲間と出会ったこの世界を、滅亡させたくない。
キュレムの言い分を受け入れることはすなわち、自分たちが出会った意味を否定することになるのだ。
築いた絆に価値がないなんて、言わせない。
そんなこと、―そんなこと、許すわけにはいかない!

そのとき、生への渇望より死への恐怖よりも強い激情がみなぎった。
この世界を守りたいと、初めて本気で思った。
この世界で生きる仲間たちを…ミジュマルを、守りたい!

自分がこの世界に来た理由と目的がやっとわかった。


「(自信も勝算も、正直ないけれど…やるしかないんだ…!)」

皆が寝静まったなか、一匹起きて、静かに決意していた。眠るミジュマルの横顔を見ながら。

「(サザンドラ…どうか、自分たちを見守っていてほしい)」
『もちろんですよぉ!』

ああ、声が聞こえる。サザンドラの声、この世界の命の声。

「(…きっと…大丈夫だ…)」

信じよう。自分を、仲間を、この世界を信じ抜こう。

ミジュマルを守れるのなら命さえ惜しくないけれど、それだときっと彼は怒るから、悲しむから、必ず生きてやり遂げよう。
そうして危機が去ったらまたパラダイス作りに励むのだ。ミジュマルや仲間たちと共に笑いながら、ずっとずっと一緒に。






もはや人間界のことは忘れてる主人公
修正前verはこちら
130923


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