main | ナノ

  Hug


「いけッダイケンキ!冷凍ビームッ!」
「くっ…ジャローダ、耐えて…!」

キョウヘイの願いも虚しく、ジャローダはそのしなやかなからだを震わせ、うめき声をあげて倒れた。肩をおとしながらキョウヘイは「…お疲れ様」と言ってジャローダをボールに戻す。

「へへっ今度はオレの勝ちだな」
「あー悔しいなあ」

いつもあいさつのような軽いノリで始めるポケモンバトルは、しかしいつも真剣勝負だ。白熱した互いの相棒同士の戦いは、今回はジャローダとキョウヘイの負けだった。勝った側であるヒュウはよくやった、とダイケンキを褒めながら笑っている。

「ねえヒュウ…僕思うんだけどさ」
「ん?」
「この時期に冷凍ビームはイジメだと思う」
「あ?あー……悪かったよ」

季節は冬。冷凍ビームはジャローダのみならず周りの地面をも凍らせた。そのせいで気温はがくっと下がっているだろう。バトルする際に相手トレーナーのことを配慮していては勝てないが、自分を抱きしめながら鼻水をすするキョウヘイを見て思わず謝ったヒュウだった。

「今日あんま着てなかったのか?」
「うん…寒い…」
「大丈夫か」
「ん〜……よし!僕ん家行こう!」

俯いていた顔と声のトーンを急に上げたキョウヘイにヒュウは目を丸くする。寒がって縮こまっていたのは演技だったのかと思うぐらいに打って変わって生き生きし始めた。

「負けたし、ヒュウにお茶ご馳走するよ!…メイちゃんが」
「ってオマエじゃないのかよッ」
「あはは」
「おい、引っ張るなって!」

寒いならどこかへ行くか、と考えていたところなのでキョウヘイの提案にのることは別に嫌でないし、自分で歩けるというのにキョウヘイはヒュウの腕を掴んで引っ張りながら自分の家へと歩いて行った。


2人がバトルしていたところはヒオウギシティを出てすぐの19番道路だったため、目的地は少し歩けばすぐに着いた。ドアを開けると、キョウヘイにとってもヒュウにとっても見慣れた光景が視界に広がる。
椅子に座ってテレビを見ていたメイは、二人に気付くと微笑みながら立ち上がった。

「よう、メイ」
「いらっしゃい、ヒュウくん。キョウヘイくん、おかえり」
「ただいまメイちゃん。もー聞いてよ」

暖房がきいているあたたかな室内と、メイが醸し出す柔らかな空気にヒュウが気を緩ませた最中、キョウヘイはサンバイザーをテーブルに置いてから思いっきりメイに抱きついた。

「ヒュウに負けちゃった」
「そうなんだ」
「うん。悔しいから慰めて」

腰に腕を回しメイの胸にしなだれかかるキョウヘイに、メイは黙って自分と同じチョコレート色の頭を撫でる。これまた見慣れた光景、二人にとって極自然な行為…ではあるがヒュウは顔をしかめた。

「おいキョウヘイ」
「ん、何?」
「オマエいつまでそんな風にメイに甘えてんだよッ」
「えー兄妹だからいいじゃん」
「兄妹だから問題だろ…」

小さいころからスキンシップが激しいこの双子(というかキョウヘイ)をずっと見てきたヒュウであるが、どれだけ見慣れた光景とはいえもうこの年頃になると違和感を覚える。いつまでもそのような甘え方をしていてはダメだろうと、同じ兄たるヒュウは呆れた。
キョウヘイの首根っこを掴んでメイから引きはがす。

「いい加減にしろよ」
「…わかった。じゃあヒュウに交代!」
「…はあ?」

キョウヘイは軽やかに身を翻し、真後ろにいたヒュウにぎゅうぎゅう抱き着いた。まさか自分に来られるとは思っていなくてヒュウは避けられなかった。

「ちょ…キョウヘイ、オマエ何もわかってないだろッ」
「あ、ヒュウもからだ冷えてるねー。メイちゃん、あったかいお茶お願い」
「うん」
「人の話聞けよッ!」

引っぺがそうとするヒュウと楽しげに笑いつつ離れようとしないキョウヘイに、仲良いなあ、と思いながらメイはいそいそと紅茶を用意し始めた。





130623

clap

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -