Good night
ピー、ピー、ピー、
「トウコ?こんな時間にどうしたんだい」
「あ、N?ちょっと付き合ってほしいんだけど、トウヤは?」
「トウヤならもう寝てるよ」
「じゃあアンタが来なさい」
「え」
「あたし×××にいるから、じゃ」
「え、ちょ、トウk」
ピー、ピー、ピー、
***
おぼつかない足取りでベッドに潜り込むと、背を向けて眠っていたトウヤが不意に身体を反転させた。暗闇の中で、ボクらは目が合った。
「ん…N…?」
「あ、ごめん。起こしたかい?」
「んーん。…どこ行ってたの?」
話を聞くだけ、という口上だったのにも関わらず、トウコは話しながらボクにもお酒を勧めてきた。というより飲め、と命じてきた。彼女の暴挙には慣れたものだが、迫力に押されて結局飲んでしまった。あまり自覚はないけれど、ボクは今かなり酔っているだろう。
「明日話すよ」
早く寝たくてそう言ったのに、彼は「ダメ。今言って」と先を急かした。
「…トウコに呼び出されたんだ」
「…やっぱり?」
「うん」
苦笑しながら天井を見た。トウヤは予想はしてたようで、一言で納得してくれた。それから「ったく、トウコの奴…」と不満そうな声でポツリと呟く。
「どうせたくさん飲まされたでしょ?大丈夫?」
「今のところは問題ないよ」
「…Nもさ、嫌なら断ろうよ」
「うん。でも、友達だから」
トウコはボクの数少ない人間の友達だ。友達の頼みは、出来るだけ聞きたい。それにライブキャスターで話しているとき、トウコの肩越しで彼女のポケモンたちがボクに縋るような目を向けるものだから、尚更放っておけなかった。
「…そんなんだから調子乗るんだって、アイツ」
そうは言ってもボクはトウコには逆らえない。昔から世話になっているせいか、頭が上がらないんだ。ボクよりトウヤは更に、だろうに。
ああ、それにしても眠い。身体を横にして、深く息を吐いた。
「N、ちょっと」
「ん…何だい?ボクはもう眠いんだが」
「待って、何でそっち向いてるの」
「え…だって今、酒くさいだろうから…」
「…いいのに、そんなのは気にしなくて」
肩を掴まれ、無理やり彼の方に向きを変えさせられた。そのまま抱き締められる。
「これでようやく寝れる」
あ、トウコにはまた後で怒っておくから。そう言ったトウヤは続けて「オヤスミ、N」と腕の力を強くした。いつもの定位置に戻ったボクは、いつものことながら彼の匂いや体温に酷く安心し、
「…オヤスミ、トウヤ」
そうして目を閉じた。
110903
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