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  2年前の話をしようか


「キミのポケモン、今、話していたよね……」

と話しかけてきたときの彼がどんな表情をしていたか、ぼくは正直覚えていないんだ。
そのときぼくが彼に対して認識したことは早口だということ。次いで、にわかに信じられないことを話していること。そして明らかに他の人とは違う、異様な雰囲気を持ってること。それぐらいだった。


彼はポケモンの声が聴こえないぼくらをかわいそうにと哀れんだあとに、本名ではないだろう名前を口にした。こちらも一応礼儀として自己紹介をしたよ。
ポケモン図鑑、という単語に彼は眉をひそめて、またベラベラ話し始めた。
早口だった。聞き取れなくはなかったけど、すでに彼を怪しい奴と認定していたぼくは、真剣に話を聞こうとはしてなかったね。
そして彼は、ぼくの隣で神妙な顔をしながらジッとしていた幼なじみにポケモンバトルをしかけてきたんだ。
これには少しむっとしたよ。緊迫した空気は、ひょっとしたらバトルになるかもしれないと睨んで、ぼくはモンスターボールに手をやっていたというのに、しかけられたのは幼なじみなんだから。
ぼくは別に彼と勝負したかったわけじゃないけど、それでも今まで受け答えしていたのは自分なのに、何故、幼なじみなんだって。


今思えば、当然だけどね。あのとき彼はずっと幼なじみを見ていたのだから。
その理由も知っているよ。どうやら幼なじみのポケモンが、幼なじみのことを『スキ』と言っていたらしい。それが、ポケモンを人から解放すべきだと考えていた彼にとっては、信じがたいことだったんだと。
最初からぼくに目をくれてなかったんだよ、彼は。

…うん?それだけならもしかしたらぼくが幼なじみの立場になっていたかもしれないんじゃないかって?
それは…なかったと思う。


あのとき、幼なじみもまた、彼の言葉を真剣に…とまではいかなくても、頑張って聞き取ろうとしていたようなんだ。ぼくと違ってね。その理由も、知っている。
『だって、気になったから。…僕自身もよくわからないけど、気になるんだ、Nのこと』
あとから幼なじみがそう言っていたよ。それがぼくと幼なじみの違い。

ぼくは彼のことは気にならなかった。もし幼なじみの立場になったとしても、無視したかもしれない。幼なじみのように、真摯に彼と向き合おうとしなかっただろうね。あのときのぼくは、自分のことで精一杯だったから。


それより別の、“もしもの可能性”をたまに考えるんだ。

あのとき彼と別れたあとに、ぼくは幼なじみに気にすることはないよと言ったんだけど、
もし、もっと強く、彼に深入りしない方がいいと言っていたら、どうなっていただろう。
幼なじみが、彼の運命に巻き込まれることはなかったのかな。

…そうだね、ぼくが何を言っても無駄だったろうね。
事実、幼なじみは何度も彼と会って、彼の言葉を聴いて、…馬鹿みたいにずっと、彼のことを気にしていたから。
出会ったときから、最終決戦を経て、別れて…そう、きっと2年経った今でもね。


彼は幼なじみのポケモンの声を偶然聴いた。幼なじみは彼のことが何故だか気になった。
それが2人の物語の始まりで、ぼくはただの傍観者だった。
運命の瞬間に立ち会ったことを、光栄だなんてちっとも思っていないよ。
あの2人にはいろいろ言ってやりたいことがあるんだ。

でも2人が揃ってぼくの前に現れてきたら、ぼくはまずポケモンバトルをしかけるよ。ヒオウギジムリーダーとぼく個人の名誉にかけて、2人を負かしてやるんだ。
え?きみたちも参戦するって?…それはまた、メンドーなことになりそうだなあ。

…うん、でもそうだね、早くあの2人とバトルしたいね。






みたいな感じで2主たちに語るチェレンが見たい
130507


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