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  forced


『彼』を見た途端に、自然と口からある二文字が漏れていた。

「えぬ……?」

『彼』は首を傾げ、不思議そうにこちらに近寄ってきた。キミはボクを知っているのかい?尋ねられた疑問に慌てて頭を振る。―知っているはずがない。目の前の人物と会ったのは今このときが初めてだ。呟いたあの二文字が何を表すかも知らないのに。えぬ。エヌ。……N?

「っ!」

その瞬間、衝撃が体を襲った。急速に急激に、頭の中を走る映像。ある一人の人物――今自分の前にいる『彼』――を中心に繰り広げられる断片的な場面が、言葉が、次から次へと脳内で流れ出した。まるで狂ったフィルムを強制的に見せられているようだった。これは…何だ、何だ、何なんだ!

その人、『彼』は、何度も勝負をしかけてきた。何度も語りかけてきた。自分の思想、そして夢を。何度も問いかけてきた。理想。真実。何度も、激しくぶつかり合った。そして映像の最後は、…別れの言葉だった。大きな穴に吸い込まれていくように、消え去る背中。空白、暗転。
…ああようやく終わったかと思えば、今度はある感情が襲いかかる。

(「会いたい」)

熱い熱い、煮えたぎった感情がどろどろと、脳に、心臓に、身体中に流れ込んできた。

(「、」)

誰の、何の気持ちかもわからない。ただ、ひどく暴力的な想いだった。それが、胸の奥でのた打ち回っている。

(「会いたい会いたい会いたい」)

熱い、痛い、…苦しい、…止めろ!止めてくれ!

「…う、あ、あ…ああ、あああ!!」
耐えきれずに膝を折った。痛む頭を押さえてうずくまる。『彼』の驚いたような声が頭上から聞こえたが、応える余裕はなかった。
「………っっ」
涙が溢れて、溢れて、まともに言葉が発せない。それでもあの二文字だけが、壊れたように口から出ていった。

「えぬ…っ」

顔を上げる。『彼』の戸惑った表情が、涙の膜越しに見えた。やはり、知らない。自分はこの人を知らない。頭の中で流れた、この人が出ていた映像の意味も、知らない。未知の感情に、思考の全てが支配されていた。

「えぬ、えぬ、えぬ、」
この声も、言葉も、想いも、自分ではない誰かのものだった。


「……N、会いた、かった」

そこで意識は途切れた。







もし2主君がNさんに会って、BW主(プレイヤー)の記憶や気持ちが流れたら…なんて妄想
120616


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