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  Caress me!


「トウヤ」
「ん、なに?」
「ボクを撫でて欲しい」
「…はい?」

耳に入った言葉が理解出来ず、思わず素っ頓狂な声が出た。そんな真剣な顔をして、突然何を言うの君は。

「な、何で?」
「ダイケンキが先程言っていたんだ。キミに撫でられると気持ち良くて、シアワセだって。ポケモンのシアワセはボクが目指すべきところであるから、参考にどんな感じなのか彼に詳しく訊いてみたらね、」
「…ひょっとして、同じことされたらわかるとか言ったの、ミール」
「ああ、よくわかったね」

Nから視線を外して、僕らが腰かけているベッドのそばに座って眠っているミールを見下ろした。自身の足に収める刀を自在に使う格好いい戦い方に反して、ミールの性格は至って温厚だ。バトルのとき以外、つまり普段はのほほんとしていて優しい心を持つ僕の相棒は、Nからきく話によると時々(僕にとって)とんでもない発言をしている。今回もそのようだ。
頭を抱えた僕の服をNはくいくい引っ張ってきた。

「さあトウヤ、ボクを撫でたまえ」
「…えっと、どこを?」

戸惑いながら口から出た言葉は何故かそれだった。いやいや違うだろ、でも何を言えばいいの、僕はどうすれば。必死に考えを巡らせたけど駄目だった。

「どこでも、好きなところを」
誘うように両腕を広げるNのそのことばに、頭が真っ白になったから。


「…ちょ、ちょっと待ってて」

まともに思考が働かない頭をぶんぶん振った。落ち着け、これは単なる友達のささいなお願いなんだから、こんなドキドキすることないんだ。…よし。

「…じゃあ、いくよ、N」
「うん」

意を決して、僕は手を伸ばした。Nは隣に座っていたから、距離はそんなにない。すぐに僕の右手はNの…頬に、到達した。そっと触れた手のひらに、やわらかな頬の感触とNの体温が伝わる。髪の毛がふわっと当たって、心臓がドクンと跳ねた。
(う、わ……)
意識することなんてないのに、手が、火傷を負ったようにじんと熱くなった。どうしよう、撫でなきゃいけないのに、手が動いてくれない。

触れたまま硬直した僕の手を、Nは目を閉じて受容していたけれど、
「…ん、くすぐったいよ、トウヤ」
僕の微かに震えている指先にむず痒さを感じたのか、僕の手をきゅっと掴んできた。
「〜〜〜っ!!」
なにそのしぐさかわいい。

限界、だった。腕の力が抜けて、だらりと右手がNから離れてすべりおちる。それから僕は俯いて、自分の赤くなってるであろう顔を左手で押さえた。Nに触れた右手から発生した熱が、ぐるぐると体中を回っている感覚がする。それをおさめるために激しく呼吸を繰り返していると、誰かが背中をさすってくれた。誰かって一人しかいない。顔を上げるとNが心配そうにこちらを見ていた。

「大丈夫かい?」
「…あ、うん、多分」

Nの平然とした様子を見ていたら、冷静になってきた。僕は一人で何をあんなにテンパっていたんだろう…ああ恥ずかしい、情けない。ごめんN。
…それにしても、何であんな風にドキドキしたのか、何でポケモンを撫でるときと同じように出来なかったのかが自分でも不思議だ。右手が、まだ熱いのは何故、どうして。
僕は混乱してきて、わけもわからず自分を攻撃したくなった。自己嫌悪に襲われて再び俯くと、Nも再び心配の言葉をかけてきた。ありがとう、N。今はその優しさがちょっとつらい。

「…」
「……」
「………」
「…………トウヤ」
しばらく黙って凹んでいたら、Nがハッキリした声で僕を呼んだ。

「…な、なに?」
僕の意味不明な行動に怒ったのかもしれない。そう思い、謝ろうとしてNを見上げると、Nは、
「結局、撫でてくれないのかい」
それはそれは不満そうに、そうのたまった。

…ああ、君的にそこが今一番気になることなんだね。そっか、うん、N、何て言うかさ、
「…勘弁してください…」





ついったの某診断メーカーの結果に、…というかフォロワーさんのリプにぐわっとたぎったので書いてみました
120531


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