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例えばの話

今日は朝から雨降ってて、部長もいなかったから、朝の部活は中止になった。でもあたし達、あたしと不二先輩、菊丸先輩、それからリョーマの4人はすぐに教室に行かずに、(嫌がるリョーマは3人で確保して、)部室でダベることにした。

あたしと菊丸先輩は地べたに座ってて、リョーマと不二先輩はベンチに座っている。
窓の外から聞こえる雨の音をBGMにテキトーにだらだら楽しく話してるなか、大きく話題になったのは菊丸先輩が昨日の夜見たテレビ番組。世界は近い未来に滅ぶ、といった内容だったらしい。それは2012年の12月21日。最初らへんは笑って聞いていたけど、そんなきっちりと数字まで出されてたら段々本当なんじゃないかと思ってくる。怖くない?とあたしが聞いたら、リョーマは「…くっだらない話」と笑った。鼻で笑いよったぞコイツ。

「えー君は信じないの?」
「当たり前じゃん」
「…さっすが…」

きっぱり言い切るリョーマに、あたしはですよねーと腕を組みながらうんうん頷く。すると上から馬鹿にしたような声が降ってきた。
「アンタ、こんなの信じて怯えてる訳?」
見上げるとやっぱり馬鹿にしたような顔をしているリョーマがいた。っていうか確実に馬鹿にしてんなこれ。あたしは首と右手を大きく振った。

「いや怯えてはないよ!信じてもないし!」
「じゃあ何」
「だってさ、…困る」

両腕で抱えた膝の上にあごをのっけてポツリと呟くと、ファンタ片手にリョーマは「はあ?」と一言。片膝だけ立てている菊丸先輩は「え、何々?」と好奇心いっぱいの目であたしを見てきた。不二先輩は首を傾げて「何が困るの、エリーちゃん」と身を乗り出してきた。それらを順に目で追ってってから、あたしはすうと息を吸ってもう一度「困るんです」と言った。

「全然信じてないけど、その日にちは困ります」
「どうして?」
「だって12月21日ですよ?3日前ですよ?」
「3日前?」
「って、何の?」
「リョーマの誕生日に決まってるじゃないですか!」
「……はぁ?」

リョーマの誕生日を3日前にして死ぬなんて嫌じゃないですか!祝えないままぽっくりとか無念すぎて、死んでも死にきれませんよ!と、あたしは拳を握って熱く熱く主張した。
リョーマはぽかーんと口を開けて、菊先輩は目をぱちくりしている。不二先輩だけが理解してくれたらしく、なるほど、と頷いていた。

「…エリー、それ、本気で言ってる?」
「え、うん。本気と書いてマジと読む、だよ」
「…」
「う?何でそんな驚いてるん?」

純粋に驚きの気持ちだけを顔に表しているリョーマは正直すっっごく可愛い。しかもこっちをジッと見つめてきちゃって、照れるじゃないか。でも何でそんな反応をするのかはよくわからなかった。

目を瞑って、“その日”を思い浮かべてみる。3日前だったら、きっとすでにプレゼントは用意してて、どんな演出をしようかなんて悩んでるだろう。今年すらまだリョーマの誕生日は来てないから上手く想像できないけど、本人以上にワクワクドキドキしてる自信はある。リョーマが生まれてきたことに心から感謝と祝福をしたい、と思いながら。
…それなのにだよ。それなのに、地球が滅びるなんて、祝えないまま死ぬなんて、堪ったものじゃねえ!ああもしそうなったらどうやってその危機を回避しよう…。

「エリー、聞いてる?」
「えっ何?ごめん聞いてなかった」
「だから、――この話以上にアンタのその考え下らない、って言ってるの」
「えー!リョーマだって誕生日前に死ぬとかヤでしょ?」
「まず、信じてないから」
「万が一だって万が一。それに、ほら、アレだよ?地球滅んだらテニスも出来ないよ?」
「…別に滅ぶと決まった訳じゃないじゃん」
「滅ぶかもしれないやん!」
「滅ばないかもしれないでしょ」
「…ううう」

君に怖いものなしかちくしょう。何か今あたしが抱えてるモヤモヤとした不安を分かち合えないことが寂しいぞ。

「ねえねえエリーちゃん!」
「ん?何ですか菊先輩」
「んーとね、…エリーちゃんが嫌なのって、それだけなの?」
「それだけって?」
「えと、おチビの誕生日が祝えないことだけ?」
「あー…いや他にもありますよ、あれとかこれとかそれとか。まだまだリョーマとしたいこと一杯あるのに死ねませんて」
「…そうにゃんだ」
「いえすあいどぅ!」

あ、そうだ。何よりリョーマを嫁にするまでは何が何でも生きたい。菊丸先輩は「エリーちゃんらしいね」ってふにゃっとした笑顔を見せた。えへへ。

…おや?いつもだったらここらで「地球滅びてもアンタの嫁とかならない」なーんてリョーマが突っ込みそうなのに…静かだと!?自分で思ってて悲しいけど絶対あの子なら言うだろう。言うだろうに、どうした。

リョーマは、例えて言うなら…なんだっけ、あれに似てるんだけど…あ、わかった!乾汁を飲まされかけてるときの顔をしてた。

「…リョーマ、大丈夫?」
「…むしろアンタの思考が大丈夫?」
「へ?何が大丈夫じゃないの?」
「…俺は、地球消滅よりエリーの方が怖い」
「えええ!?」

もうこの話は聞きたくないとばかりにリョーマはすたこらさっさと部室を出て行った。
「先輩今の聞きました?ちょう失礼と思いません?」
「あはは」
先輩たちは笑ってあたしの頭を撫でてきた。

そんなこんなでチャイムが鳴ったので、3人で慌てて部室を出てダッシュで教室へ向かった。そうしてこの話はお開きとなったけど、今日一日中、あたしはずっとこのことを考えていた。



「なっ、リョーマ」
「…ん」
「2012年じゃなくてさ、明日世界が終わるとしたらどうする?」
「…またその話?」
「うん」
「はあ」
「溜め息禁止ー」

部活が終わって、帰り道。この頃、暗くなるの遅くなったな。夏だね。
腹へった、と腹をさするリョーマに聞いてみた。理由は謎だけど、リョーマはもうこの系の話は嫌らしく、眉間にシワを寄せた顔が道端の街灯に照らされて見えた。

「テニス」
「え?」
「テニス、する」
「…ああ、さっきの質問の答え?」
「そう」
「やっぱ、テニスか…そうだよな、君は」
「何」
「いーや。これで決心固まったよ」
「…決心?」
「うん!」

もし2012年、もしくは明日世界が終わるとしたら、あたしはその原因を突き止めて、全力でそれを阻止しよう。

宇宙人が来たなら星に帰るよう説得する。ダメなら力づくでも。
隕石が飛んできたなら、根性で破壊だ。
戦争とかだったら止めさせる。核兵器もこわ…しちゃそれこそ終わりか。解体する!
それでもダメだったら、いっそテニスできる星を探してそこへ移住だ!

そこまで一気に言って、隣にいるリョーマを見たらまたぽかーんとしていた。あれ、早口すぎたか?もっとゆっくり話すべきか…でも早く言いたい。言いたくて仕方ない。リョーマの前じゃ、いつもこうなる。何か色々止まらなくなってしまう。溢れ出す気持ちも言葉も抑えられない。

「…………何で?」
「うん?」
「何で、そんなこと、」
「あー。だってさっきリョーマが言ったんじゃん。テニスしたいって」
「言ったから、何なの」
「うん。あたしも君とテニスしたいし、君のテニス見てたい」

だから明日も明後日もいつまでも、今日と同じようにリョーマがテニス出来るようにするんだ。

「リョーマの明日を遮るものは、あたしがぶっこわーす!」

ふん!と荒い鼻息を出しながらあたしは言い切った。今日ずっと考えてたのまとめたことを、ちゃんと言えて気持ちいー。あ、でも、リョーマに伝わった…か?

「…アンタなら」
「?」
「地球滅びても、一人で生き残ってそうだよね」
「んな、一人で生き残ってもしゃーないやん。リョーマもいなきゃヤダ」
「俺は、世界にエリーと二人きりなんてヤダ」
「…えー。ろまんてぃっくじゃないか」
「似合わないよ」
「ぶーぶー」

リョーマと二人きり。それはそれでいいかもしれないけど、でもやっぱ、皆もいてほしいな。大切な人たちの顔を、夜空を見上げながら思い浮かべた。父さん母さん、南次郎さん倫子さん奈々子さんカルピン、青学の先輩たち。それからリョーマがいる世界で、あたしは生きていきたい。まだまだ死んでたまるか。壊すものがあったら邪魔する奴がいたら全力で戦おうじゃないか。

「ね、世界守るの、リョーマも協力してね」
「やだ」
「何ですと」
「エリーが守ってくれるんでしょ?」
「いやそう言ったけども!」
「アンタが戦ってる間に俺はテニスしとくよ」
「…こんのテニス馬鹿めー!あたしもするんだからね!」
「何を」
「テニス!」
「…ま、世界終わるまでに一回でも俺に勝てたらいいね」
「そ、それぐらいまでには勝ったるから!一回どころか何回でも!覚悟しとけ!」
「はいはい」
「おう!…ん?何か話変わってるよーな…」
「いいんじゃない?」
「んー…うん、まあ、いっか」


例えばいつか世界が終わるようなことがあるなら、あたしはそんな運命変えてみせる。
君と、君がいるこの世界を守ってみせるから。




この2012年12月21日に世界終わるってのは確か2年前にTVで言ってたことです。
そして夢主ちゃんはロマンチストです。越前さん曰く「似合わない」けど。笑


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