dream | ナノ


on one's way to school.

「あっリョーマ、また〜…いつもずるい!」
登校中、いきなりエリーが叫んだ。

梅雨が明けてからというもの、今まで雲に天気の主役を奪われていた太陽が猛威をふるっていた。降り注ぐ日光は、地上の人々から水分のみならずエネルギーまでも吸い取っていく。テニスしているときは集中しているためか(もちろん暑いけれど)さほど気にならないが、こうしてただ歩いている間はどうしても意識してしまう、日差しの強さと鬱陶しさと明るさ。―ああまるでコイツみたいだな、とリョーマはふと思った。

「…なに」
目線だけ、何やら口を尖らしている隣の人物へやる。

「前から思ってたけど、君ばっか影のとこ歩いてるの!ずるい!」
学校へと向かう道。建物が作る影は一人分の幅しかない。リョーマはいつもそこ側を歩いているので、自然とエリーは暑い日照る側にいる。日と影の場所は驚くくらい温度が違うのだ。

「じゃ、前にでも来たら?」
「え、やだよ。リョーマの顔見れなくなるし」

後ろだったらジロジロと見られる確率100%なので、あえて前に、と言ったのに意味は無かった。予想通り、だけれど。リョーマははあ、と小さく息を吐いた。時折吹く風は、どうも生温い。エリーは腕の表面に滲み出ている汗をタオルで拭いながら、更にこう続けた。

「それに、あたしは君の隣を歩きたいの!」
「俺は、歩きたくないけどね」
「歩いてるじゃん」
「不本意だから」
「大丈夫、いつか本意になるさ」
「誰がなるか」
「あ、そーだ!ねえ聞いて聞いて」

リョーマが相槌を打ったり合いの手を入れたりしなくても、時に無視したりスルーしたり睨んだりしても、構わずにエリーは話しかける。喋り続ける。

「今日の占いさ、やぎ座8位だったよ!」
…1位ならまだしも、そんな良くも悪くもない中途半端な位を伝えられても困る。そもそも占い自体に興味がないリョーマなのだから、余計に。まさかそれだけなのか、「それでさー、」…どうやら続きがあるようだ。

「秘められた才能が開花するんだって」
「へえ」
「どんな才能なのかなあ」
「は?」

影が無くなった。途端に襲ってくる日差しにうんざりする。ちりんちりんと音を鳴らして、同学校らしい男子生徒が乗った自転車が二人を追い越して行った。エリーは頭の後ろで手を組んで、にかっと笑った。

「秘められたってことは誰も、自分も知らないってことじゃん?どんな才能だろうってワクワクしない?」
「…たかがテレビの占いにワクワク出来るのがエリーの才能じゃないの」
「えー。リョーマは夢が無いな」
「っていうか、アンタいつもワクワクしすぎ」
「ワ…ワクワクしすぎ!?初めてそんなことで怒られたよ…別にいいじゃんか」
「よくない。うざい」

バッサリ切り捨てた一言に、「ひでえ…」とエリーは大げさにうなだれる。しかしすぐに、顔を上げ反論した。

「いや待て。あたしがいつもワクワクしてるのって、君のせいだよ?」
「はあ?責任転嫁するわけ?」
「転嫁じゃないもん。リョーマに原因がある!」
「どういう」
「ほら、リョーマの試合見てるとワクワクするし、リョーマと一緒いるとドキドキするし、いつもそんな感じだから、いつか心臓バーンって壊れるんじゃないかって不安なぐらいだし」

歩きながら、ワクワク、のところで拳を握り、ドキドキ、のところで胸を押さえ、バーン、のところで両腕を大きく広げるエリーに
「いっそ壊れろ」
としか、リョーマは言う他なかった。

「だが断る!…で、そうさせているのは君なんだから、あたしは悪くない…はずだ!」
「…ふーん」

手に提げていたペットボトルの水を飲みこむ。さきほど買ったものなのに、すでにぬるくなっていてリョーマは顔をしかめる。次自販機を見つけたらファンタ買お。

「…リョーマー?」
「なに」
「なに、って…何か反応くれよ。さびしいじゃん」
「じゃ、めんどくさいから黙れ」
「えええ」

いじけるエリーを無視して、ふと道路の向こう側を見たら、そこを歩いていた男子生徒と目が合った。軽く手を振られたので小さく会釈はするが、誰だか思い出せない。
「お、××先輩だ」
「知ってるの?」
「この前ガムくれた良い人!」
「…現金」
「覚えてない君よりマシ」
テニスバッグを背負ってるのでテニス部員であることはわかったが、基本レギュラーと一部の部員しか名前も顔も覚えていない、と言うか知らないリョーマだった。それでも別に支障はないので、あの男子の名がリョーマの脳に刻まれることはこの先もないだろう。

再び影ゾーンに入る。例え僅かでも暑さをしのげるのは有り難いことだ。汗で張り付く前髪を掻き揚げると、「ねえねえ、」とエリーが制服の裾をくいくい引っ張ってきた。
「も少し横に詰めたらあたしも影ん中に入れると思うんだ」
「だが断る」
「まさかの!?…えー、何でさ」
「何でも」
「ぶーぶー」
「無理やり入ってくるなよ」
すす、と寄ってくるエリーを言葉で牽制する。「…ちっ」と舌打ちをしつつもエリーは珍しく素直にすす、と離れていった。と言っても二人の距離は5cm程度しかない。抱きつかれないだけマシだ、とリョーマはこの近さをすでに諦めている。
「ケチ」
「知らん」
「ぶーぶー」

行く先に自販機を見つけたが先客がいた。エリーと同じ制服を着ている、つまり同学校の女子生徒である彼女は、何を買おうか決めあぐねているようだった。リョーマが近づき足を止めると、その顔をちらと見た瞬間に彼女は慌ててボタンを押して缶を取り出し、走り去っていった。
「…?どしたんだろ」
「さあね」
その不審な行動を気にせずリョーマはお目当てのものを買った。「あれかなあ」と呟きながらエリーも同じものを買う。
「あれ?」
歩きながらさっそくプルトップを開ける。冷たい液体がのどをこしていった。弾ける感触が気持ちいい。
「リョーマを待たせるなんて申し訳ない!って思って急いだのかな、さっきの彼女さん」
「なにそれ」
「だって、待たせるわけにゃいかんっしょ、君を」

エリーはファンタを自分の頬にくっつけて「はあー…ちべたい」と目を細めた。それから勢いよく腰に手をあて煽る。親父か、とリョーマは思ったが以前も同じことを突っ込んだので今回は口にしなかった。代わりに自分も残りのファンタを飲み干した。

「あ、学校だ」
「だね」
「今日の時間割嫌いだからやだなー」
「どうせ全部嫌いでしょ、アンタは」
「特に今日のはやなの!」

缶を片手にそんな会話を交わしながら、二人は校門をくぐっていった。





半年前(12月現在)のネタなので季節外れ&詰め込みすぎてgdgdなりましたがやっぱコイツ等書いてて楽しいです。

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