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Milk carton

「エリー」
コンコンと開いてるドアを軽く叩く。
いくら言おうと勝手に入ってくるエリーとは違い、リョーマは例えドアが開いてても(エリーの部屋はたいてい開いているが)ノックをする。律儀と言うより、単にエリーと同じ行動を取りたくないだけだった。

「うおっリョーマ!?何々??」
「ちょっと、下まで来て」
「おおおおおっけい!」

リョーマからの頼みなど、いやそれどころか、話しかけてくることすら稀だ。
舞い上がったエリーは二つ返事をし、やっていたゲームのセーブをする。ゲームは、もう2歩ほど進めば強制イベントが始まるところだった。「ふっ命拾いしたな緑頭…」と、謎の捨て台詞を画面に向かって吐き、エリーはDSの電源を消す。そして、先に階段を降りていったリョーマの後を急いで追った。


「なにこれ」
「見てわかるでしょ」
「…紙パック」
「そう」

リビングのテーブルには数十個ほどの牛乳やジュースの紙パックが立てられていた。エリーがとりあえず椅子に座ると、向かい側に座ったリョーマからハサミが手渡された。

「菜々子さんから頼まれた。これ開けって」
「…え〜」
高揚していた気分が一気に下がったエリーは、うなだれた。
「はあ」
「…俺だってめんどくさい」
「へ?…ああ、違う違う」

ため息の訳を勘違いされて、エリーは首を振った。確かに面倒くさいではあるが、リョーマと一緒にやることは何だって楽しいエリーである(※ただし勉強は除く)。そう、作業自体に文句がある訳でなく、

「めったにないリョーマからのお誘いがこれかよって思うとさ…」
「…お前、何を期待してたの」
「もう少しときめきのあるものを」
「はあ」
今度はリョーマがため息を吐く番だった。それから無言でカッターを手に取り、リョーマは紙パックを切り始めた。エリーも気を取り直して、握ったままだったハサミの柄に指を入れた。

しばらく二人は作業に集中した。ジョキジョキと紙パックを切る音と、縁側で寝ている南次郎のいびきがリビングに響く。
「…いい気なもんだよね」
ポツリとリョーマが、縁側をチラリと見て呟いた。エリーはその表情を見て少し考え、ああ、と納得した。

「ひょっとしてさ、南次郎さんがアレだから君が頼まれたの?」
「…ん」
「なるほど。で、あたしにも手伝わせようって思いついたんだ」
「別に、アンタ暇だったから良いでしょ」
「いやいやゲームしてたし。ようやく不気味な団体とのバトルラッシュ終わって、アイツ等のボスもめったんぎったんにしようとしてたとこだったのにー」
「知らん」
「ぶーぶー」

相手の都合は一切お構いなし。それは時にエリーもそうなので、あまり反論は出来なかった。
話題が途切れ、再び静かな間が訪れる。

「…ん〜」
作業に飽きてきたエリーがハサミを置いて、指のマッサージをしながら、ぼやいた。
「あたし、こういう工作みたいなの昔から苦手なんだけどなあ」
「…切ってるだけじゃん」

何かを作っている訳ではなく、むしろ壊す作業だというのに。そう突っ込んだリョーマだが、同時にだろうな、とも思った。エリーが手先が不器用なのは知っている。それにしても、エリーが切った紙パックはどれも輪郭がジグザグで、つまりとても適当な切り方だ。

「リョーマは、けっこう器用だよね」
「エリーに比べたらね」
「あ! これ破った方が早くね?」
今まさにもう少し丁寧にやれと言おうとしたのに、これだ。余計に汚くなるから止めろ、と目で訴えるとエリーはしぶしぶ紙パックから手を離し、もう一度ハサミを手に取った。

「てかさ、どうせ捨てるんでしょこれ」
「捨てるんじゃなくて、リサイクルに出すの」
「そうなの?」
「…って、言ってた」
「むう。ならもうちょい頑張るか」

そうして数分後、二人は全ての紙パックを切り開いた。綺麗に重ねられた状態を見ていると、何となく気持ちいいもので。あとは軽く洗って干せば、終了だ。

「終わったー!」
「お疲れ」
「うん!君もね。あ、リョーマはこれから何かする?」
階段を昇りながら、エリーは三段ほど下にいるリョーマを見下ろした。ふわっとあくびをしつつ答える。
「寝る。さっきから眠かったし」
「えー…」
一緒にゲームでもしようと思っていたのに。それならば、とめげずにエリーは提案する。
「んじゃ、あたしも寝よっと」
もちろんリョーマの部屋で、だ。ふっふーと笑うエリーの言いたいことを読み取ったリョーマは、しかし一刀両断する。
「だめ」
「何で」
「絶対お前、ベッドに潜り込んでくるでしょ」
ぎくり。あっさり考えていたことがバレたエリーは頭を掻きながら、開き直った。
「…てへ。まあ良いじゃーん、手伝ったし、たまにはほら」
「却下」
「…ケチー!」

「…うるせえなあアイツ等…」
「ほあら」
二人の話し声で目が覚めた南次郎が、タバコを口に咥えて呟いた。まるで同調するかのように、隣にいたカルピンが一鳴きした。

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