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ラスト春休み

「ねむ…」
ダルい身体を引きずって顔を洗いに行くと、風呂場にはつい数日前に同居人になった人物がいた。

「あ、おっはよーリョーマ!」
「…はよ」

あいさつをしてきた少女の名はエリーと言った。何故朝からそんな元気なのだろう。寝起きの、いや常にローテンションな少年…リョーマには不可解だった。
引き戸を開けてそこに腰かけて、エリーはどうやら靴を洗っているようだった。赤と黄色で彩られたエリーの靴が、今は白い泡に覆われている。
用を済ませてさっさと戻ろう…話しかけられないうちに。そう思うも虚しく、今まさに出ていかんとした所でリョーマは呼ばれてしまった。

「あ、ねえねえリョーマ」
「………なに」
「見て見てー靴!綺麗じゃん?」
「…そうだね」
「うわあテキトー」

こちらを振り向いて、洗いかけの靴をどうだ!と見せられても、何も答えられないだろう。リョーマが微妙な表情で微妙な返事をすると、ははっとエリーは笑った。

「君も一緒にやらない?」
「…やだ」
「何で」
「めんどい」
「えー…明日は入学式なんだし、せっかくだからやろうよ」
「だから、今洗ってんの?」
「うん!あとさっき母さんがメールで『靴の汚れは心の汚れよ』って言ってたから、洗わなきゃって思ってさ!」
「…なにそれ」

再び背を向けて靴磨きに専念するエリーを見ながらドアにもたれて、リョーマはため息をついた。
(…何で俺、コイツと)
普通に談笑してるのだろう。あまり関わりたくないと思っているのに。リョーマのマイペースもエリーの前では発揮出来ずにいる。こちらが拒否のオーラを出しても何のその、エリーはずかずかとリョーマの領域に踏み入って来るのだ。それが気に入らない。
後ろにいる想い人の心情も知らずに、エリーは明るく鼻歌を歌っている。

「あー明日から楽しみだなあ。青学ってどんな学校だろ」
「…さあね。それより、大丈夫なの」
「うん?何が」
「靴。…乾く?」
「…あ、…やっばどうしよう乾くかな!?」
「さあ」
「…あああ!」

石鹸でベトついた手足をシャワーで洗い流しながら、エリーは思い出したように大声を出す。

「今度は何」
「そーいや宿題…ってあったよね…」
「…あったね」
「…やってない…」

縋るような目つきでまた振り向いてきたけれど、やっぱりリョーマにはどうしようもなかった。

「アンタ、休みの間、何やってたの」
「え、君とテニスばっかしてた」
「…っていうか、俺のストーカーばっかしてたよね」
「えええ!してないよそんなん」

靴を振ったり絞ったりして水を落としているエリーの驚きに驚いた。
アンタの住んでたところでは、風呂に無理やり一緒に入ろうとしたり、人の部屋にいつの間にか居座ってたり、出かけようとしたら必ずついてくる奴をストーカーって言わないのか!
…口には出さず、投げかけた視線に恨みを込め、思わずついたため息に嘆きを込めた。もうやだこいつ。

「あ、ちょ、どこ行くのリョーマ」
「…戻る」
「あたしもうちょいで終わるから待ってよー」
「やだ」

制止の声は聞かずにリョーマは出て行った。エリーといると調子が狂う。あんな奴とこれから同じ家で同じ学校で過ごしていかなければならないのか。本日3度めの重いため息を吐いた。

一方、エリーはと言うと。
「うーん…まだまだ固いよな」タオルで濡れた足を吹きながら、一人ごちていた。「もっと仲良くなりたいのに…むう…よし!」望みを叶える方法も手段もエリーにはわからない。ただひたすらアタックし続けるのみだ。…これからも。

靴を持って立ち上がる。それからドアを開けて、家中に聞こえるくらいの声を出した。
「リョーマー!テニスしよテニス!」

そんなエリーのまたもや忘れていた宿題に頭悩ませる姿と、それに呆れるリョーマが、夜に見れたそうな。

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