SETSUBUN
「リョーマー」
「ん」
そそくさとエリーが部屋に入ってきた。ベッドに寝転がりながら漫画を読んでいたリョーマは、それから目を離さずに生返事をする。
「あのさあ」
「なに」
「豆まきやりたいんだけど」
「やればいいじゃん」
一人で、と付け加える。
エリーは床に座ってベッドにもたれこんだ。そして一向にこちらを向かず、たいして面白くもなさそうに漫画を読むリョーマを見つめる。
「いや君と一緒にやりたいの」
「何で」
「理由はない」
「…」
「でもさー…やりたいけどどうしよう」
「?」
また強引にやらそうとするかと思えば珍しく弱々しい声を出すものだから、リョーマはようやく首を動かしてエリーを見た。首だけベッドに乗せているエリーはこれまた珍しくしゅんとしていた。
「リョーマがやるとさ」
「やるなんて一言も言ってないんだけど」
「まあまあ。やるとするとだよ、絶対あたしに向かって投げるのはもう予測済みな訳だよ」
「へえ、わかってんじゃん」
「おう何せもうすぐ1年の付き合いだからね!」
「いばること?」
えっへん、と胸を張るエリーは見飽きた見慣れたいつものエリーだった。先程の様子は一体何だったのだろうか。まあどうでも良くなってリョーマはまた漫画に目を戻した。
「ふっふん。んでさーやりたいけどやりたくないけどやりたいなあ」
「だからやればいいじゃん、一人で」
「ところがどっこい。…これ、見てみ」
エリーがゆっくりと右手をあげる。手にしていたのは節分用の豆が入った袋だった。菜々子が買ってきたものだ。目だけ動かし、ちらりと一瞬見たそれの訳がわからなくて、思わず身体を起こして今度はじっくりと見る。
「…何それ」
「…豆」
「………」
どう見ても豆じゃなくてよくて豆だったもの、だろう。袋の中はつぶれた豆で一杯で、ぐちゃぐちゃになっていた。
「やりたいけどどーしよどーしよってこれ持ちながら迷ってたらいつの間にかこうなってたんだ…」
「どんだけ馬鹿力で持ってたの、それ」
「だからあたしにとっては普通の力なんだってばー…」
どうやったらリョーマと円満な豆まきが出来るかそればかりを考え、目的に使うはずの豆すら見えなくなり、袋を握ったり振り回したりしてたらこうなったようだ。呆れたリョーマは元の体勢に戻り、エリーに背を向けた。
「菜々子さんに怒られるよなうああどうしよう…」
「新しく買ってくれば?」
「んじゃ一緒コンビニ行かん?」
「一人で行け」
「ううう冷たい!冷たいよリョーマ!!」
後ろでぎゃあぎゃあ騒ぐエリーは、見えないけれどベッドをばんばん叩いてるみたいだ。感じる軽い振動もエリーの言葉も気にせずに、リョーマはひたすら無視して漫画を読み続けた。