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焼餅一丁

「へい越前さん」
「なに」
「モチ食わん?」
「モチ?」

エリーがいつものようにノックもせずドアを開けて、しかしいつものように勝手に入らずに、ちょこんと顔だけ出した状態でリョーマを呼び掛けてきた。

「腹へったから何かないかなって探してたらさー」
「…さっき夕飯食べたばっかだよね」

時刻は8時半。夕食もお風呂もとっくに済ませた時間帯だ。宿題をやる気はさらさら無くて、リョーマはゲームでもしようかとベッドに寝転がりながら思っていたところだった。上半身だけ起こし、呆れ顔でエリーを見る。

「えー仕方ないじゃん食べ盛りだもん」
「…」
「んで南次郎さんがくれたんだ、モチ!食う?」
「いい」
「何で」
「俺は別に腹へってない」
「んな…せっかく持ってきたんだから食えよ」
「は?持ってきたの?」
「あ」

大きく口を開けてしまったという顔をした後、あーせっかく驚かそうと思ってたのに、と言いながらエリーは部屋に入ってきた。そして、背中に隠してたらしいものをリョーマに差し出す。

「じゃっじゃーん!おモチ一丁!」

醤油がかかったアツアツの湯気立っているモチが海苔に巻かれている。それらが4個、皿の上に乗っかっていた。
何とも思ってなかったのに、視覚と嗅覚で認識すると、途端に食べたくなってきたから困る。一度断ったものを、というかエリーがくれるものを簡単に頂戴と言えるほどリョーマは素直じゃなかった。

「どーだ美味そうだろ」
「何でお前が得意げなの」
「作ったのあたしだもーん」
「レンジで焼いただけでしょ、それ」
「う…ま、まあそんなこたあどうでもいいさ!これを食うか食わないかだ!いや食え!」
「…仕方ないね」
「おっ食う気なった?」
「ん」
「やったあ!」

嬉しそうにしてエリーは近くまで来て床に座り、皿はリョーマの膝の上に乗っけた。

「ちょ、何でここ…」
「他に置く場所ないから頼んだ!さあ食お食おー」
「はあ」

頂きまーす、とモチをむしゃむしゃ食べ始めるエリーにため息ついて、自分も食べようとモチを手に取って気付く。

「…エリー」
「ん〜?なに〜?」
「適当すぎ」
「…えへ」

不格好に膨れ上がったモチは仕方ないとして、海苔はモチの大きさにあってないし、醤油もただ上からかけただけだ。要は、非常に食べ辛い。

「早く食べたかったからさー」
「さっき変に勿体ぶってたくせに」
「へへへっ…ま、あれだよ、美味けりゃオールオッケー」
「はあ」

色々諦めて、リョーマはモチに齧りついた。ばりばり音を立てて海苔が破れていく。醤油も手に垂れていった。

「お、隊長イイ食べっぷりぃ!」
「美味い」
「だろだろー。へへへ」

エリーは笑いながら2個目に手を出した。リョーマは手についた醤油をぺろりと舐める。

「しょーゆ、ベッドにこぼすなよ」
「いえっさー」

今年もコイツとこんな感じなんだろうか。モチを租借しながらふと思う、1月2日のことだった。

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