dream | ナノ


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部活が終わった。もう夕暮れだ。帰ろうとして、リョーマを探したけどどこにもいない。部室にもコート内にも行ったけどいない。走り回って、ようやく見つけた。校舎裏だった。手塚部長もいて、…何だろうあの雰囲気。何か怪しい。こんな時間にこんな場所であの緊迫した感じ…ひょっとして告白か!?やばいあたしのリョーマが…!でもこーゆーの邪魔しちゃ駄目だよな…よし。あたしは隠れてこっそり二人の話を聞くことにした。

部長がいつもより固い顔で、明日高架下のテニスコートに来い、みたいなこと言ってた。こ、これはデートの誘いか!誘いなのか!?しっかしあのリョーマに有無を言わせないとは…部長やるな。あたしも見習おう…じゃなくて大変だ。どうしよう。ついてったら怒られるかな…一人で、とも言ってたし…あ、今みたいにこっそりついて行こうかなそうだそうしよう。いけないことだろう。でも突然誰かにリョーマを奪われたらあたしのショックは量りきれない。部長とか最大のライバルだし。覚悟を決める意味でも…うん、バレたら素直に謝ろう…とりあえず!明日は!ついてくぞ!

そして翌日、あたしは計画通りリョーマを尾行した。部活サボっちゃったけど思えばあの二人もだよな…それだけ重要なことかもしれん。何するんだよ、ってテニスか。テニスコートなんだし。あれ、ということは昨日のあれは告白でもデートの誘いでもなかったんだな。しかも何気に初めてじゃん二人の試合とか!面白そう!抱えていた不安が無くなった代わりにドキドキし始めて、あたしは柱に隠れながら二人の試合を見た。あたしの「面白そう」なんて軽い予想を遥かに超えた試合だった。

部長の気迫、想い、言葉、圧倒的な力、テニス。リョーマの戸惑い、息切れ、余裕をなくした顔、膝をついた姿。どれも、初めて見た。初めて、だった。

頭が真っ白になって、二人が去っていったあとも、あたしはそこから動けなかった。



「…リョーマ、いる?」
「…エリー。遅かったじゃん」

風呂上り、自分の部屋。髪をタオルでがしがし拭きながらベッドに腰掛けていたリョーマは、ようやく帰ってきて、珍しくノックをした後に部屋に入ってきたエリーにおかえり、と言った。力無く「ただいま」と返ってきた。これまた珍しかった。

「あ、のさ」
「うん?」
「…テニスしようぜ!」
「は?」

ゆっくり近づいてきて、リョーマの前に立つエリーは俯いていて、浮かない表情をしていた。と思えば、バッと頭を上げ、リョーマを見据える。言われたことは、けっこうに予想外だったので、驚いた。

「何、いきなり」
「んー…したくなったから。無性に」
「したくなったから、て…」
「い、良いじゃんよ!テニスするのに理由なんか必要ない!」

その言葉に二人、ハッとした。エリーは、思わず口から出た言葉だったが、計らずもあの手塚の問いかけの答えになっていることに気づいた。それは、エリーなりの答えだったのだ。彼、はどう思っているのだろうか。落ち着かなくなってエリーは「だ…駄目?」と聞く。するとリョーマは、大きな瞳を瞬かせて、それからふっと笑った。

「いーよ、やろうか」
「…う、うん!やろうやろう!」

OKされたのと、そのリョーマらしい笑みに、ホッとしたのとドキドキしたのと何だか泣きたくなったのとでぐちゃぐちゃになったエリーはどうしようもなくなって、リョーマの手を引っ張って走り出した。

「っちょ、エリー」
「んあ?」
「俺ラケット取ってないんだけど、」
「あたしの貸す!」
「…何でそんな急いでるの」
「早くしたいから!あ、倫子さーん!ちょっと寺いってきま!」
「え?もう夕飯出来て…」
「あとで食べますんで!」

ずんずん先を行くエリーに引っ張られる中、リョーマは後ろをちらりと見たら、苦笑する母と目があって、行ってくると口を動かした。母は手を振ってくれた。
そして二人はテニスをした。やっているうちに、自分も相手もいつもの調子を取り戻してきたことに気づいた。

「うあー…何で勝てないんだろ」
「当然でしょ、アンタ力はあるけどテクニックとか無いし」
「知ってるやーい…あ、そいやリョーマ。さっき風呂入ったばっかなのに汗かかせちゃったな、すまん」
「何、今更」
「うん、だから一緒入ろ」
「やだ」
「…ちっ」

鐘の土台にもたれ掛かりながら二人は話をしていた。すっかり夜になっていた。初夏の夜はまだ少しだけ肌寒い。汗が冷えて、風邪でもひいたら困るから、早く帰らなきゃ。あ、でもその前に。エリーは、あの時から考えた続けていたことを口にする。

「あのさ、」
「ん?」
「…あたしね!リョーマのテニスが好きだよ!」
「…え?」
「他の誰でもなくて、君がしてる、君だけのテニスに惚れたんだからな!」
「…ちょっと待って、エリー。アンタひょっとして、見たの?俺たちの試合」

ぎくり。察しのいいリョーマだから、バレるだろうとは思ってたが体が強張った。しかしそのときは素直に謝ると決めていたので、エリーはリョーマの方を向いて頭を下げた。

「…ぶっちゃけると、こっそりついてきました。うん、悪かった、ごめん」
「アンタね…」
「ごめん。でもさあのさ、あたしずっと考えてたんだ、部長が言ってたこと。最初全然わからんくて、今でもよくわかんない」
「なにそれ、」
「だってさー…うん、とにかくこれだけは言いたかった。さっきテニスして、ハッキリやっぱり思った。あたしは君のテニスが好きなんだ」
「…親父のコピーだって、言われたけどね」
「知らんよ南次郎さんのことなんか。いや南次郎さんのことは好きだけど、そうじゃなくて、違うんだってば絶対!」
「何、が?」
「だって誰かと同じ人生歩んでる奴なんか一人もいないっしょ?だから同じテニスってのも無いよきっと!」

手塚が、今のままのリョーマでは駄目だと、成長出来ないと判断して、ああいうことをしたのだということは、わかった。あのあと学校に押しかけ、顧問である竜崎に詰め寄って話を聞いたからだ。それでも。親とか周りとか環境とか、成り立ちや考え方や性格や想いで、完璧に同じなんてことは、きっとない。手塚は同じだとあれはコピーなのだと考えた。実際そうなのかもしれない。でもエリーは絶対違うのだと主張した。

「……何で?」
「え」
「そこまで言い切れる根拠あるの?」
「根拠って…んなの、あれだよあれあれ」
「どれ」
「試合中のリョーマの、楽しそうな顔とか生意気な笑みとか自信たっぷりな言葉とか相手挑発する態度とか、こんなにドキドキさせるのは君だけだと思うし」
「…それ、微妙にテニス関係なくない?」
「いーやある!とにかくあたしは君と君のテニスが好きなんだー!」

勢いよく両腕を上げて叫ぶエリーに、リョーマもどうしようもなくなった。そして、いつもなら意地でも聞かないエリーの言葉が今はすんなりと心に入ってきてるのに気づき、戸惑った。エリーから視線を外し、横に置いていたラケットを手に取り見つめる。何だろう、どうすればいいのだろう。

「まあそれでもリョーマが納得いかないってんならさ、見つければいいし」
「え?」
「君だけのテニスを、誰にも文句言われないようなテニスを探そうぜ!あたしも手伝うからさ!」
「…」
「ね!…あれ、違う?」
「…はあ」
「何でそこでため息!?」
「別に。何か、エリーの話聞いてたら、悩むのが馬鹿らしく思えてきた」
「えっそれどゆこと」
「そういうこと」
「えー…」

首を傾げるエリーをよそに、リョーマは目を閉じた。テニスが好きという言葉が不釣合いなくらいに好きで、これからもしたくて、もっともっと強くなりたい、否、強くなる。答えはそんな単純なことで良いのかもしれない。エリーには言わないけど。礼も言わない。自分は、言葉で示すタイプじゃないから。リョーマはラケットを強く握りしめ、立ち上がった。

「エリー」
「お、どうした」
「テニス、もっかいしよ」
「ん?ああいいけど…で、結局どう思ったの君は」
「内緒」
「え」
「色々思ったけど、エリーには言わない」
「え、…えええ、ええっ!?何で何でっっ!?」
「さあ?」
「ちょっとちょっとホントどういうことなん!」
「ほら、始めるよ」

コートに立ち、サーブをしようとするリョーマに慌ててエリーも位置についた。全く意味がわからないけど、どうやら吹っ切れたようだからまあいいか、とエリーは思った。リョーマがリョーマであるなら、それで良い。彼のテニスをこれからも見続けて、追いかけたいから。

「あ、あと?」
「アンタさっき自分も手伝うから、とか言ったよね」
「う?…あー!あれか、言ったね」
「それ、いらないから」
「何ですと」
「俺一人で見つけるし」
「…えー」
「それだけ」
「…まあ、いいけども。さあばっちこーい!」

それからテニスを再開した二人はつい夢中になって、夕飯時間を大幅に過ぎ、倫子に怒られ、お互い相手の所為と言い合い、また怒られて。すっかり冷めたご飯を温めて食ったり、風呂に先に入るのはどっちかじゃんけんしたり、一緒寝よ〜とやってきたエリーをリョーマが閉め出したり、そうして二人の長い一日は終わっていった。




まず謝ります。アニメ原作の流れ無視して&何番煎じだよなネタですみませんでした…!
越前に大きな影響を与えた手塚に嫉妬してしまい、一人で悩み一人で解決する越前が切なくて、せめて私の中の越前は夢主ちゃんが引っ張っていってあげて欲しいと思いまして…。しかし書いてて違うなと感じました。
やっぱり結局、越前は一人でも答えを見つけられますね。夢主ちゃんが何しようとしなかろうと関係ない。夢主ちゃんのおかげで立ち直れたなーんて展開はありえないな、と。
それでも書き続けたのは、ただ言いたかっただけです。影響を与えることは出来ないけど、伝えたい。夢主ちゃんと私の心からの叫びです。それにほんのちょっとだけ後押しされた越前で良いかなって。
何かごめんよ夢主ちゃん。でも仕方ないぜだって君はヒーローを慰めるヒロインじゃないもの。強いて言うならヒーローに憧れて追っかけてる近所の少年ポジションだよね。笑


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