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わすれてた

ふんふんふんふーふふん、と鼻唄交じりにエリーがリビングに現れた。風呂を出たらしい。相変わらず速い。自分も入ってこようというのと、倫子から言われたことをエリーに伝えるためにリョーマは立ち上がる。

「エリー、母さんが…って」
「ん〜?」
「…何やってんのアンタ」
「え、アイス食おうとしてるんだけど」
「…さっき歯磨きしてなかったっけ?」
「あー!忘れてた!」

すでに袋をゴミ箱に葬られ、今まさにアイスを口の中に入れようとしていたところだった。その体勢のまま固まるエリーに呆れざるをえなかった。

「フツー忘れる?んなこと」
「いや風呂入ってる間に水と共に流れちゃったんだよきっと」
「流すなよ」
「ふはっ、…どーしよこれ。食べる?」
「いらない」

と言ってエリーはアイスを差し出してきたが、リョーマは一も二も無く断わった。

「良いじゃん美味しいよこれ」
「いやいい」
「いーからいーから」
「いいってば…ってほら馬鹿!垂れてるし…」
「げ」

押し問答を繰り返すうち、夏の気温はじわじわアイスを溶かしていった。手から腕、それから床へ垂れていくアイスにエリーは焦った。

「やっば!ちょ、リョーマこれ持ってて!あたし雑巾取ってくる!」

ばたばたばたとエリーは洗面所へと去っていく。思わずアイスを受け取ってしまったリョーマが、今度は焦った。垂れ続けるのを防ぐには、舐めるしかないからだ。ひょっとしてハメられたのか俺…と思ったが、とろとろ溶けていくアイスを見てるともうどうでもよくなった。ばぐっと噛み付く。

「…」
「お待た!…あれ?結局食べたんだ」

雑巾片手にやってきたエリーは、急いで床を拭き始めた。それからアイスを租借しているリョーマを下から眺めた。

「…うまいじゃん、これ」
「…ふっふーん!でしょでしょ、あたしのお気に入り!」
「ふーん…」

雑巾はとりあえず床に放置し、エリーは次にティッシュでリョーマの腕を拭き始める。

「っ自分でやるから」
「いやま、あたしのせいだしさー」

続いて自分の腕や手を拭いた。フツー、順番逆でしょ、とリョーマは思ったが口にはしなかった。アイスをまだ飲み込んでなかったからだ。
エリーは雑巾を片付けるべく、再び洗面所の方へ。リョーマはアイスを食べてから風呂に入ることにして、再び椅子に座った。


「…ふう、災難だったな〜」
「俺がね」
「えー。アイス美味かったっしょ?」
「…まあね」
「じゃ、おけおけ!」

冷蔵庫から麦茶を取り出しながら笑うエリーに、よくもいけしゃあしゃあと、リョーマは思ったが口にはしなかった。疲れていたからだ。

「ねっリョーマ」
「ん」
「今度倫子さんにそれ箱買いするよう言っとくね!」
「…ん」
「あとさっき何か言いかけてなかったか?」
「あ」



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