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もうすぐ夕飯の時間。リョーマは特に何も考えずにぼーっとしながらテレビを見ていた。そこで母に呼ばれ、手伝うよう命じられた。
「…どこにあるの?」
「冷蔵庫よ」
言われた通り、冷蔵庫からそれを取り出しリビングのテーブルに座った。そこで、エリーがやってきた。
「あれっリョーマ、何やってんの?」
「納豆開けてる」
一度だけエリーを見たリョーマはすぐに作業を再開した。エリーは椅子をひいて、隣の席に座ってきた。
「倫子さんに言われたの?」
「ん」
「じゃ、あたしも手伝うよ」
「いい」
「っ何で!?」
見たところ、納豆パックで開いてないのは残り3個もある。何故断わられたかわからないエリーは、リョーマの服のそでをくいくい引っ張った。
「お前がやると絶対飛び散るから」
タレの袋をぴり、と破りながらリョーマが言い放った言葉に、何とも言えなかった。エリーは手先が器用でない。加えて馬鹿力の持ち主だ。リョーマの言うことは最もだろう。が、エリーはひかなかった。
「いーやいける!」
そうしてエリーはパックのフタを開け、シートを取り、タレ袋を手にする。制止の言葉は聞かずに、袋を開けた次の瞬間。
ぴゅるるるるる
リョーマの予想は見事的中。二分割されてしまった袋から、勢いよくタレは飛び散っていき、テーブルやら手やら他のパックにまで被害は及んだのだった。
「…」
「…」
「…あはは、やっちゃったね!」
「エリー」
「…はい」
「怒っていい?」
「も、もう怒ってません…?」
「俺止めろって言ったよね」
「だって、やらなきゃ負けと思ったんだもん…」
「……」
「いひゃいひゃいっちょ止めてすみませんでしたああああ!!!」
「…はあ」
エリーの頬を思い切りつねってた手を引っ込めて、リョーマはティッシュを取って周りを軽く拭いた。エリーも汚れた手を拭くことにした。
「あ、リョーマ」
「なに」
「タレ、ついてるよ」
「え?」
エリーが力任せに開けたせいか、タレの飛翔距離は半端なかったようだ。リョーマの顎の近くに少しだけついていた。それを見て、リョーマが反応するよりも速く、エリーは手を伸ばし、親指でタレを拭う。それだけならまだ良かったのだが、
「〜〜〜〜っっ」
「あ、しょっぱい」
あろうことかエリーはそれをそのまま舐めたのだった。
「ねーリョーマーそろそろ許してよー」
「…」
「納豆混ぜてあげるからさー」
「…」
「ねえってばー…てか、別に怒ることしてないじゃんよー」
「…」
「…すみませんあたしが悪かったから睨まないであと何か言って!」
その後、エリーはしばらくリョーマに口をきいてもらえなかったそうな。