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純粋な不純

激しい練習をひとまず終えて、不二は休憩することにした。肩にかけたタオルで汗を拭き、スポーツドリンクを飲みながらベンチへ向かうと先客がいた。我らがテニス部マネージャーの、エリーだ。
エリーは広げた両足の間に両腕をおき、ベンチに座っていた。何やらあまり穏やかでない様子だった。眉間にシワを寄せ、唇を尖らせている。(エリーちゃん、どうしたのかな?)不二は気になってベンチへ向かう足を速めた。

「あ、不二先輩」
「やぁエリーちゃん、こんにちは」
「こんにちは!練習お疲れ様です!」
「隣、良いかな?」
「あ、どうぞどうぞ」

近付く不二を見て、エリーはぱぁっと笑顔になった。不機嫌はもう払拭されたのだろうか。つられて笑ったけれど、やはり先程の表情が気になる。エリーが少し横に寄ったおかげで空いたスペースにとりあえず座って、不二は聞こうとした、が

「ねえねえ先輩」
「うん?なに?」
真顔になったエリーの方から話しかけられてしまった。

「リョーマって、先輩たちと比べるとちっちゃくて可愛いのに強くてカッコイイですよね」
「そうだね、…ってどうしたの、急に」
「つまりちっちゃいとこも魅力的であたしの好きなところの一つでもあるんですが」
「うん」
「ちょっと伸びて欲しいかなって今初めて思ったんです」
「え、どうして?」
「だって…あ、また!ほら先輩見てくださいよあれ!」

エリーが右手を勢いよく真っ直ぐ前の方へ突き出した。そのさした指の先を見ると、乾が立っていた。後姿だったので何をしてるかまではわからない。意味が分からず、問い質そうとした所で乾が少しその長身を動かした。

「…あ」
「ね!?」

そして不二は気付いた。レギュラージャージに黒いズボン、同じメーカーの白い帽子と靴。乾に隠れて見えなかったが、そこにリョーマがいたことを。二人はおそらく、練習メニューについて話し合っているのだろう。

「ああやって誰かが前に立つと見えないんですよ!さっきからそれがもうむーってなって!もう!」
「ああ、だからさっき…」

ようやくあの表情の意味と、エリーの言葉の意味が両方理解できて、スッキリした。同時にあまりにもエリーらしい悩みというか、不機嫌の理由がおかしくて、吹き出してしまった。

「え、何で先輩笑って…?」
「ああ、ごめんね。つい、おかしくて」
笑ったせいかまたノドが渇いたので、側に置いたドリンクを手に取った。

「?? まあいいですけど…あ、そうだ。そんでもう一つ考えたことがあるんですよ!」
「何々?」

不二を見上げながら足をぶらぶらさせているエリーの表情は、楽しいことを見つけて早く親に報告したい!といった子どものそれだった。ノドを潤して、そんなエリーに微笑みながら不二は可愛い後輩の話を聞く。

「モノが透ける能力が欲しいなーって」
「透ける…?」
「そうそう、それで邪魔な奴とか障害物とかぜーんぶ透けて見えなくしちゃえばオッケィじゃね?って思って」
「…でもエリーちゃん、それじゃあ肝心の越前くんも見えなくなるんじゃないかなあ」
「あ……あー!そっか!確かに…」

不二がん?と首を傾げて突っ込むと、エリーはそこまでは考えていなかったらしく、頭をがしがし両手で掻きながら叫んだ。

「それじゃあ先輩!」
「うん?」
「あたしどうやったらリョーマだけ見れるんですか!」
「…」

くそー透ける能力があればって思ったのにそれも駄目とか…あ、んじゃああすれば…と呟き始めたエリーは、そもそもそんな能力は持てないという現実は無視してるようだ。
あくまで真剣に考えているエリーに、不二は少し驚いたような表情を見せて、それからすぐにまた笑い出した。ついに笑いすぎて涙が出たぐらいだった。

(充分君は、越前くんしか見えてないよ)

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