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Happy Birthday 不二先輩!

2月28日、午後11時55分。

もう少しで日付が変わる。普段の不二ならばすでに寝ている時間だが、今日はまだ起きていた。何となく目が冴えていたのだ。傍らにはコーヒー。手には読みかけの洋書。空には無数に瞬く星。誰もが眠っている静かな空間で一人、寝るまでの時間をつぶしていた。
うとうとしかけていたとき、コツン、と窓から音。不意に聞こえたそれはとても小さな音だったが、しんとした夜には響いた。不思議に思った不二は、カーテンと窓を開けて外を見てみた。そこには自分が可愛がっている後輩二人の姿が在った。
こんな夜中にいったい何の用なのだろうか。上からコートを羽織り、急ぎつつ物音を立てないように階段を降りていった。

外は暗かったが、街灯のおかげで二人の姿ははっきり照らし出されていた。最近は受験やら進学やら考査やらで何かと忙しかったので、会うのは随分と久々だ。寒さで赤くなっている顔に懐かしさすら覚え、顔が綻ばずにはいられない。

「エリーちゃん、越前くん」

その声で不二に気づいたエリーが、ぶんぶん手を振りながら名前を呼ぶ。「ふーじーせーんーぱーい」不二は少々身体を震わせながら、二人のもとへ早足で歩み寄った。

「…やあ」
「こんばんはです不二先輩っ」
「ちぃーっス」
「こんばんは。どうしたの?もうこんな時間だよ」
「ええとですね、あ、あと20秒だ。ほらリョーマ、カウントダウンしよ」
「…一人でやれば。おれねむいんだけど…」
「カウントダウン…?」

エリーが手と手を擦り合わせ熱を作っていたのを止めて、携帯の時計を見ながらリョーマに“カウントダウン”を促す。その言葉を聞いて首を傾げたが、一つの考えが頭をよぎった。
まさか、そんな、たったそれだけの為にこんな時間に来たのか。それともこんなことを考えるのは自意識過剰か。思考がぐるぐるとしている不二に構わずに、二人は事を進めた。

「だーめ。はい、じゅーう、きゅう、はーち、なーな、ろーく!」
「…five、four、three、two、one…」
「不二先輩っ、ハッピーバースデー!!!」
「…おめでとッス」

リョーマの流暢な英語でカウントダウンが終わり、限りなく小さな声で二人は祝いの言葉を告げた。エリーは万歳をしながら。リョーマは軽く頭を下げながら。不二はしばらく呆然としていたが、すぐにふわりと微笑んだ。胸がいっぱいになる。

「ありがとう…。覚えてたんだね、僕の誕生日」
「もっちろんですよ! あ、でも流石に夜中は迷惑でしたかね…?」
「うん、そうだね」
「ええっ、すす、すみませんっ」
「クス、冗談。迷惑どころかすっごく嬉しいよ」
「え、あ…良かった。不二先輩が喜んでくれたんなら何よりです! あ、先輩。これ、プレゼントです」

そう言ってエリーは、うきうきと持っていた紙袋を差し出した。不二は受け取って、中を覗いてみる。綺麗に包装された箱らしきものがあった。

「何なのかは開けてからのお楽しみってことで」
「教えてくれないんだ」
「イエス!ちなみに返品は不可ですからねーっ」
「しないよ、そんなこと。…本当にありがとう」
「へへ、何か照れくさいですねこれ」
「ふわぁ…」
「わっリョーマ、まだ寝るなよ〜」

先程から黙って不二とエリーのやり取りを見てたリョーマは、何度目かわからないあくびをしながら、目を擦っていた。その仕草が可愛くてあどけなくて、くすくすと笑ったら、涙目で睨まれてしまった。ふと浮かんだ疑問をそのまま口にした。

「…エリーちゃんはわかるとして、越前くんが来たのは驚きだね」
テニス以外はものぐさで睡眠大好きな彼は、自分の意思でこんな夜中に足を運ばないだろう。

「エリーにむりやり連れてこられたんスよ…ったく」
「だって今年は29日ないから、せめて12時ぴったりに祝いたかったんだもーん」
「だからってオレまで巻き込むな」
「いーじゃんか。めでたい時にんなこと言うのは無粋ってもんだよ。ね、不二せんぱ…い?」
「え?」
「どしたんスか。何か苦い顔してますけど」
「あぁ…」

自分でも気づかないうちに、顔に出していたのか。不二は、エリーの言った『今年は29日がない』という言葉に反応していた。
まだ一年すら満たない時間を共に過ごしてきただけなのに、こうしてわざわざ祝ってきてくれた二人が、不二には堪らなく愛おしかった。そんな大好きな後輩等と、来年は同じ学校で誕生日を迎えることはないのだ。その時不二は高校生になっているから。苦笑しながら、ポツリポツリそんな淋しさを語った。
少しの間、沈黙があったが、意外にも先に口を開いたのはリョーマだった。

「…別に、卒業したからって一生の縁を切るワケじゃないじゃん」
「え?」
「先輩が高校行っても、誕生日ぐらい祝えるでしょ」

そんな気にすることないんじゃない?そうあっさり言うリョーマに、不二とエリーは心底驚いた表情をしていた。

「リョーマ…」
「越前くん……」
「な、何スか。何かオレ、変なこと言いました?」
「ううん。ねぇ、それって…」
「「来年の今日も一緒にいてくれるって事だよね??」」
「……はい?」

見事にハモった二人が、何を言ってるかリョーマにはサッパリわからなかった。(つーか何でそんな目ぇキラキラさせてんの!!?)
エリーは両手を頬に当てて顔を赤らめる。不二は右手を胸にやって、感動に浸っていた。

「きゃー、リョーマってば大胆発言〜!」
「どうしよう、エリーちゃん…僕、今、すっごく嬉しいや…」
「あたしもですよ!知らなかった…リョーマがそんなに先輩のこと想ってたなんて…!」
「はああ?何でそうなるの!? 俺は当たり前のことを言ったまでだ!」
「照れない照れない!」
「照れてな…って、わっ!…ふ、ふじせんぱい?」

リョーマはいきなり不二に両肩を掴まれた。しかも、満面の笑顔つきで。逃げられず、文句すら言えないまま、ただ困惑した顔で不二を見上げるしかなかった。

「ありがとう越前くん。今日は15年間生きてきた中でも、最高の誕生日だったよ…」
「……」

そんなとてもとても嬉しそうにされたら、もう何も言えなくて。リョーマはむず痒くなって、「別に…」と少し赤くなりながら不二から離れ、帽子を深く被りなおした。エリーはああ今のムービーで撮ってれば良かったな、なんて呟いていた。

「あ、もちろんエリーちゃんも、ありがとね」
「…いえいえ。愛しの先輩のためなら何でもしますよ、あたしは」
「ふふ。所で、そろそろ帰った方が良いんじゃない?それと、今日は嬉しかったけど本当はこんな夜遅くから二人だけで出掛けちゃ駄目だよ」
「はーい。リョーマ、帰ろ」
「…ん」
「んじゃ不二先輩、さよなら〜」
「っス」
「うん、気をつけてね。バイバイ」

ペコリと頭を下げて、二人は帰っていった。その二つの背中が小さくなるまで、ずっと見ていた。少しして、不二はゆっくりと家の中に入っていった。暖かい気持ちに包まれながら。
部屋に戻って、朝か今か少々迷った末、プレゼントを開けてみることにした。そこで、箱の上にカードがあることに気付いた。内容は、エリーの字で、また祝いの言葉と、このカードは本日行われるらしい自分の誕生日パーティーへの招待状であることと、

「携帯を見てくれ…ってどういうこと?」

書いてあるままに、机に置いてあった携帯を見る。画面に表示されるのは、何十件もの新着メールの数。途端、ぐっとどこからか込み上げてくる何かを、止めることは出来なかった。「…やってくれるなあ」


Happy Birthday 不二先輩!

「他の先輩たちでも、12時ぴったりに祝うとかなかったとか言ってなかった?」
「まあね。でもやっぱ、ぴったしの方が、まして先輩みたいな誕生日だったら尚更嬉しいっしょー。めっさ喜んでたし」
「エリーもね」
「へ?…ああ、うん。当然!」
「…そういう奴だよね、お前」
「何を今更。さぁーそれより、早く帰って早く寝よっ。今日は忙しいぞー…あ、ちゃんとリョーマも手伝ってよ?」
「はいはい」
「不二先輩が、また、もっともーっと喜んでくれると良いな!」
「そーだね」
「やる気ないな」
「今更、でしょ?」

ConnaOTIdakedo,Congratulation!!



うちの不二はリョーマの事も夢主ちゃんの事も大好きです。(恋情かどうかは謎)
でもって夢主ちゃんも不二が大好きです。多分、リョーマの次くらいに。



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