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有効活用

「えいっ」
「冷たっ…、」

暑いのと眠いのとでボーっとしていたので、背後から近付くエリーに気づくことが出来なかったリョーマである。何やら冷たいものが当てられた頬を思わず押さえて、それから見上げると、ニカっと笑うエリーと目が合った。手に持つは、四角くて銀色の手のひらサイズの…

「なにそれ」
「ふっふー。電子辞書さ!」
「電子辞書?」

聞いたことはあるが、見たのは初めてだった。電子辞書どころか、普通の辞書ですらあまり使ったことはない。エリーも同じようなものだろう。辞書なんて似合わない。

「どっからパクってきたの、それ」
「ちょ、人聞き悪い!いいんちょから借りたのー」
「何で」
「やー、初めて触った電子辞書が意外にも冷たかったから」

君にもおすそわけ!と言ってから、エリーは背中に隠してあった左手をリョーマの眼前に出した。その手には右手にあるモノと似たようなものが。

「…2個め…」
「もう一個借りてきました」
「何で」
「こーするの」

えいっ、と先程と同じ掛け声とともに、エリーは二つの電子辞書をリョーマの頬に押し当てた。

「どうー?」

確かにそれはすごくひんやりしている。が、何しろ硬いのであまり気持ちよくはなかった。リョーマはケラケラ笑うエリーの両手首を掴んで、頬から離させた。

「返して来い」
「えー」

せっかくリョーマに喜んでもらおうと思ったのになあ。エリーはしょぼんとしながら両手にある電子辞書を見つめた。そして持ち主の元へ返しに行った。
辞書を借りて、何かを調べる訳でなく、ああいう行動をとるなんてエリーぐらいであろう。らしいけれど。
クラスの委員長に頭を下げて礼を告げるエリーを遠くから見ながら、リョーマは「暑い」と一言、溜め息と一緒に吐き出した。

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