dream | ナノ


し、嫉妬なんかしてないんだからっ!

緑山中との試合が終わって、昼飯も食べて、木陰の下。さっそく寝始めたリョーマの寝顔をばっちり堪能したあと、あたしはふと思い立って、そこから離れた。少し時間がかかって(何あの行列…いじめだ…!)、戻ってきたらリョーマはすでに起きていた。それはいいけど、何故か手にはあたしと同じモノがあった。え、何で。

「あれ」
「…なに?」
「何だ、ファンタ買ってきたの?」
「違う」
「へ?」

せっかくこっそり買って、喜ばせようと思ったのに。問いかけに対する答えにますます首を傾げるあたし。不思議に思ってそれをまじまじ見た。

「置いてあった」
「置いてあったって…ここに?危なくね?」
「ん」
「ん?何それ…ああ、そういうことか」

リョーマがだるそうに見せてくれた小さな紙。そこには全国行きが決定したことへのお祝いと、応援のメッセージが可愛らしい文字で書かれてあった。多分、一緒にファンタも置いてあったんだろう。竜崎さんあたりかなー、やったの。まさか拾い食いならぬ拾い飲みをしたのかと思っちゃったから、違って良かった。「よいしょっと」とりあえずさっきみたいにリョーマの横へ座る。

「つか貰ったって言えよー。紛らわしいなあ」
「…起きたらあった」
「…なーる」

寝てたから渡すにも渡せなかったのかな。わかるわかる。リョーマは本当に気持ちよさそうに眠るから、起こせないもんね。どうしようかとかきっと焦った末に、置いたんだろう。目に浮かぶ光景にちょっと笑った。しかし貰った本人よりもあんま関係ないあたしが微笑ましくなるのも変な話だ。そう思ってまた笑った。

「何にしたってダブっちったな。どうしよこれ」

リョーマのために買ってきたファンタ。竜崎さんに先を越されたためにムダになってしまった。いや竜崎さんのせいじゃないけどさ。でもどーしよ。自分用もバッチリ一緒に買ってきたしな…。両手で掴んだまま、膝の上に置いた二つの缶を見つめた。何だか切ない。

「…くれないの?」
「え」

ボソッと言われたその一言に驚いてリョーマを見たら、思いっきり物欲しげな視線がこちら(ファンタの方ね)に注がれていた。向こう側で横に倒れた缶があるのを発見して、さっきのはもう飲み終わったことを知った。早えー。

「…いやいや、君、今飲んでたよね」
「関係ないじゃん」
「ありまくりだって。腹壊すぞ」
「そんなヤワじゃないし」
「…さいでっか。それではどーぞです隊長」
「ん」

まああげるために買ったんだし本人が欲しがってるならいっか、とプルタブを開けてから渡す。リョーマが受け取って、黙ったまま飲む姿をあたしはそっと見た。
少しだけ、パッと見ではわからない、本当に少しだけ“喜び”という感情が出たリョーマのその顔。お礼の言葉がないのは慣れた。お礼が欲しくてあげてるんじゃない。この顔が見たくてしょうがなくて、あたしはいつも110円をこの子に捧げてる。といつも思う。
あの娘はあげたのにこれが見られないなんて悲惨だなー、とか。あたしのも飲んでくれたなー、とか。(まあリョーマはあたしからの、なんて関係なく、ただ飲みたかっただけなんだろーけど)その二つのことが、何でかはわかんないけど嬉しかった。
何でだろうホント。嬉しい。ああテンションが上がってきた!手に力が入って、うっかり缶を握りつぶすところだった。危ない危ない。ていうかあること忘れてたや。あたしも飲もーっと。ノドに爽快感を味わいながらも、笑いが止まらない。笑いってかにやけ?

「へへへっ」
「…何?」
「いーや、何でも?」
「…変なエリー」
「今は何言われても気にしないもーん」
「ふーん。まあ変なのはいつものことだけどね」
「っそれは失礼!」
「気にしないんじゃなかったっけ?」
「それはそれ、これはこれー!」
「どれだよ」

呼ばれた気がした。この声は大石先輩かな。もう休憩は終わりか。すっくと立って、リョーマも促して、歩き出す。途中、空っぽになった缶をゴミ箱に捨てたあとに、思いっきり身体を伸ばした。空が綺麗だった。何となく手塚部長が浮かんだ。遠い遠い空の下で、今頃一人で何をしてるんだろう。

「…早く怪我治して帰ってこないかなー、ぶちょー」
「…そんな早くは無理でしょ」
「わかってるけどさー。なあなあリョーマ」
「何?」
「絶対、全国行こうね」
「…言われなくても。決まってんじゃん、そんなの」
「だよなー。あたしもマネージャーがんばろ」
「ちゃんとやってんの?お前」
「むっ、しっかりきっちりやってますからー。…多分」
「どういう風に?」
「あ、あれやらそれやらを…」
「だから、どれだよ」
「おーい、二人とも。早く来ーい」

少し先に先輩たちがいる。手を振っているのが見える。再び呼ばれたので、あたしたちは軽口の応酬をしながら急いで皆の元へと走っていった。




夢主ちゃんは嫉妬を嫉妬として認識してません。
私の中の彼女はどうやっても、そうにしかならないというか。THE・鈍感というか。まだまだ子どもというか。


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