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朝方笑歌

7時2分。階段を一気にのぼり、エリーは自分の部屋へ飛び込む。そして机に放置されていた携帯に手を伸ばし、履歴からその名前を探し迷わずコールをかけた。

「もしもしリョーマっ?清々しい朝だね!おっはよー!」

静かな朝に響くエリーの大きなよく通る声。それから、『…』ブチッ。ツーツーツー。という無機質な音。相手は、何も言わずに電話をきったようだ。「あっちょっ、切るの早っ!」ためしにもう一回かけてみたらとらなかったので、すぐに諦めた。「…しゃーないな」呟き、携帯を握り締めたままエリーは部屋を出た。向かうは隣の部屋。


「やっほリョーマ。2回目だけどおっはー…そう睨まんでよーう」
「…こっちは清々しいどころか寧ろ不快な朝なんだけど」

リョーマはベッドに腰かけたまま手にある携帯を見ていた。髪や服は乱れ、いかにも寝起きの格好。ただでさえ朝に弱いリョーマは、エリーに電話で起こされたことにより不機嫌度はマックスだった。とげとげしく嫌味たっぷりに言い放たれた言葉に、エリーは苦笑した。もちろん反省はさらさらしていない。

「まあまあ気にしない!どーせそろそろ起きないと時間ヤバいじゃん?」
「気にするわ。……で?」
「はい」
「わざわざ電話した理由は何」

同じ家に住んでるというのに。今日もエリーは意味が分からない。何故、とむすっとした顔で訊くリョーマの隣に、ふははと笑いながらエリーも腰かけた。

「いやーさっきめざ〇しテレビで占いやっててさ」
「占い?お前占いなんか信じる方だった?」
「テキトーに楽しむ派だよ。んで、今日やぎ座さんのラッキーパーソンがこれだったから」
「どれ」

左手で携帯を掴み、右手でグーを作りながらエリーは胸を張って言った。

「“一番最初に電話した人。”おおこれはやらねば!って思って」
「…」
「リョーマのラッキーパーソンになりたくてね。正直ラッキーパーソンが何なのかはわからんけど」
「ならやるなよ…」

つまり意味は知らないがラッキーパーソンとやらになりたくて電話した、と。リョーマは心底呆れた声を出した。ああこいつは今日も馬鹿だ。

「良いじゃん良いじゃん。さあリョーマも!はい、これ」
呆れられても馬鹿にされてもエリーは構わず元気に、いつの間にかベッドに放置されてあった携帯をひょいと取って差し出す。

「何」
「君の携帯」
「知ってる。…だから?」
「ユーアーやぎ座。ミィートゥ!」
「…」

エリーは、にこにことしている。そのへったくそな発音で言いたいことがわかったリョーマは、差し出された携帯をあらん限り、潰れるのではないかと思うほど強く握り締めたあと、ガンッ。――その拳を、エリーの頭に上に振り下ろした。

「…いっだっ!な、何するのリョーマ…」
「朝飯食べてくる。エリーに付き合ってらんないし」
「ひどい…あ、待って待ってあたしも行く。腹へった」

リョーマが立ち上がって出て行こうとするので、エリーも慌てて同じように立ち上がり追いかける。

「は?食べてないの?」
「食べよーとして、占い見たから今があるよ!」
「…あ、そ」

テレビを見て、直後走り出したエリーが容易に想像できたので、リョーマはたまらず溜め息をついた。

「うん。さあめっしめっし〜めぇしが僕らを待っている〜っ」
「…何その歌」
「自作!」
「ばーか…」

7時10分。力なく呟く片方とテンション高く歌う片方の、何とも対照的な二人は並んで歩き、リビングへと向かっていった。

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