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第三の選択肢

「さて突然ですがここでリョーマに選択肢が二つあります!」
「…は?」

部活の合間でのことだ。練習を終えたリョーマに、エリーは恭しくタオルを差し出した。それで汗を拭いていると、いつもは渡されるもう一つのものがないことに気付く。
「ねぇ、ドリンクは?」問われたエリーは「! きたか…ちょい待ち!」とどこかへ走っていった。と思ったらすぐに戻ってきた。右手にはリョーマのお気に入りである炭酸飲料、左手には見覚えのある水筒。

「あたしの右手にはファンタ、左手にはスペシャルハイパー…何チャラ乾汁!さあどっちを選ぶ?」

エリーはそれらをリョーマに向かって突き出して、聞く。水筒には、『乾』と書かれたシールが張ってあった。苦い思い出が蘇り、リョーマは顔をしかめた。

「…んなの決まって…」
「ただし」
「?」
「このファンタはあたしが一口二口飲みました」
「!?」

確かに缶のプルトップは開いている。エリーは双方を自分の頬にくっつけ、にかっと笑いながら再度、聞いた。

「それを踏まえたうえでさあどっち」
「…てか、」
「うん?」
「何で?」

リョーマは肩にかけたタオルを両手でぐっと引っ張る。どの選択ももちろん嫌だが、それ以上にエリーの意図がつかめず、あまりにも突発的すぎる質問に困惑した。

「へ?…ああ。あのねー」
一瞬の後、リョーマの思いがわかったエリーはくるりと後ろを向き、さほど遠くない位置にいる先輩二人を見た。

「あっちで微笑んでる不二先輩が提案。ノート構えてる乾先輩が協力。んであたしが実行係り!」
「…質問答えてないじゃん…」
「さぁーどっち?」

どっちも嫌だ。すごく嫌だ。何よりも三人の計画に乗るのが、嫌だった。いつも振り回されてばっかりで。今度こそ、思い通りにいかせてたまるか。――ならば。リョーマは、ゆっくりと口を開いた。

「…エリー」
「ん?」
「新しいファンタ買ってこい」
「え」

ならば、第三の選択肢を作ればいいだけだろう。

「今すぐ」
「いやそんな選択肢な…「エリー」
「…っ」

明らかに動揺しているエリーを睨みつけ、強い語調で押さえつける。有無は言わせない。

「買ってこい。良い?」

さながら冷酷に命令する王子様だった。そしてそれに一庶民が逆らえるはずはなく、まして王子様を心底慕っているエリーは、

「…Yes,sir!速攻で買って参ります…!」


「そうきたか」
「…乾先輩」
「ふふ、予想外だったね乾」
「…不二先輩。で?」

走って買いに行ったエリーの代わりに、不二と乾が向かってきた。リョーマが今度はこちらをギッと睨んだ。エリーは馬鹿だから抜け目があり適当にあしらえても、この二人が参入し、余計な入れ知恵にすることにより事態がややこしくなるのだ。何してくれたんだ、と視線に怒りを込めた。

「なあに?」
「こんな変なことした訳は何スか」

先程エリーに答えてもらえなかったことを改めて聞いてみる。

「んー面白そうだったから?」
「…」

不二は至って何でもない風にさらりと、いつもの様に微笑み答えた。まあ大体はそうだろうな、と思っていたリョーマは、しかしやはり溜め息をつく。
次いで、詳しい解説を聞かされた。不二は、自分とエリーがその…いわゆる間接キスでどういう反応を見せるか、乾は新作ドリンクの効能を知りたかった、とのこと。ちなみにリョーマが乾汁を選ぶ確率は75%だったらしいが、乾のデータにはなかった選択をしたので、何やらノートに書いておこうとも言われた。
全貌は理解はしたが、納得は出来るはずもなく。けれど何を言おうと無駄なのもわかっているので、

「…はあ、そっスか。とりあえずコレ、先輩たちで処分しておいて下さいよ」

エリーに急いで渡された缶と水筒を、不二の胸に押し付ける。そのまま練習に戻ろうとしたところでエリーに呼ばれた。

「リョーマっ!これっ、ファンタっ…買ってきた、よ…っ!」
振り返ればエリーの全開の笑顔(汗付き)。虚をつかれてしまった。…いつもこんな従順であればな、とリョーマは思ったとか思ってないとか。

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