メロメロです
リョーマの挑発から始まった試合は、思いもよらぬ展開になっていた。楽勝と信じてやまなかったのに、あのリョーマがすでに『目黒の人形使い』とやらに2ゲームもとられたのだ。皆、不安と焦りをそのまま口にだしていた。そんな中で、冷静になにやらノートに書き込んでいる乾がリョーマを呼ぼうとした。
「越ぜ」
「リョーマー!ちょっとこっち来ーい」
しかし、どことなく楽しそうな声音に乾の声は遮られた。珍しく騒がずにジッと試合を見ていたエリーだ。腕を上げて大きく手を振っている。どうやら自分の言いたいことはエリーが言ってくれるようだと思い、乾は小さく息を吐いた。やがてリョーマがダルそうにこちらへ向かってきた。
「…何?」
「あのさ」
おめーに構ってる暇はねーんだよとでも言いたげなリョーマに対し、エリーはあくまでマイペースにリョーマをぎゅむっと抱きしめた。それから気付かれないようにそっと小さく持ち上げる。
「ちょ、何して…っ!?」
「あ、やっぱりいつもより重い」
公衆の面前で何を、とリョーマはジタバタする。するとエリーはまたまた珍しくあっさりと腕を解いた。かと思えば中腰になる。リョーマは腹のあたりくらいにあるエリーを呆然と見下ろしていた。
「エリー…?」
「よっ…と」
「!」
エリーはリョーマの腰に巻いてあったベルトを外した。
「あ…」
「うし。軽くなったっしょ?身体」
そしてリョーマもようやく気付いた。身体が重たかったのは、この鉛30枚入りのベルトの所為だということに。同じく知らなかった味方の面々も、どこかホッとしながら呆れたような声をとばした。エリーはベルトをたすきのように肩にかけて、軽くジャンプしているリョーマを見ながらくっくと笑った。
「外し忘れてただろーこれ。君らしいけど」
「…ってか、口で言えよ…」
「はいはい。文句は後で聞くから、今は」
リョーマの肩を掴み、ニヤニヤしている試合相手を指さす。反撃開始だ、とエリーは言った。
「あのヤローを叩きのめしてこい」
「…言われなくても」
「ふは、その調子で行っちゃえー!」
そうしていつもの不敵な笑みを浮かべながら、リョーマはコートに戻っていった。それからはもう、完全に調子を戻したリョーマのワンマンショーだった。
「いつから分かってたんだ?」
リョーマの技の解説をしながら、乾はエリーに問いかけた。先程とは打って変わって激しくリョーマの応援をしていたエリーが、呼ばれて乾を見上げる。
「え、乾先輩たちと一緒で最初からですけど」
「僕は面白そうだから黙ってたけど…エリーちゃんはどうして?」
二人の会話に不二も入ってきた。最初から落ち着いていたうちの一人だ。エリーは頬を掻きながら、えへ、と舌を出した。
「いやー悪戦苦闘するリョーマも可愛いなあーって思ってたら2ゲーム終わってました」
「…越前が知ったら怒りそうだな」
「あ、だからここだけの話にしてて下さいね?」
ぶっちゃけ抱きしめる必要もあんまりなかったんですけどね。
試合が終わって見事に勝利を収めたリョーマと、「あ、お疲れリョーマー!」と走り出したエリーに、このルーキーとマネージャーは、と皆は苦笑せずにはいられなかった。
『ジャンプJブックス てにすの王子様SPECIAL 【恐怖の強化トレーニング】』より。
あの小説を読んで、カッコイイ越前にハァハァしながら妄想したブツ。
さて越前がどのようにカッコ良かったかは、是非買って読んでみて下さい!と宣伝。
今回は心情よりも行動を書きたかったので、そんな私もとい夢主ちゃんの気持ちは割愛して、その代わりタイトルに込めました。