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腕を広げて希って

まだまだ慣れない仕事が一段落ついて少し休んでいる時に、名前を呼ばれてどんっと後ろから衝撃がきた。「エリーちゃーん!」「おわっ」あ、この感覚は…抱きしめられてる?

「…菊丸先輩?何か用ですかい」
相手はまだあんまり話したことのない先輩だった。と言っても入部して一週間もないから、ほとんどみんなそうなんだけど。

「ううんー特に用はにゃい」
この先輩はあたし(中一)より二つも年上(中三)なのに、にゃーにゃー言ってる。何の違和感もないのがすげえ、ってのが第一印象だったにゃあ。あ、うつった。うつったまんま返事する。

「にゃいんスか」
「にゃいよー…てかエリーちゃん」
「うい」
「俺にこうされても動じないんだね」
「動じるってどういう意味ですか?」
「え?えーと…動揺するって意味」
「なるほど、ありがとうございます」
「ん?」
「先輩のおかげで一つ賢くなりましたし」
「…ああ。んと、どう致しまして?」

あたしの父さんと母さんは結婚して何十年も経ってるというのにお互いが大好きで、スキンシップも大好きで、抱きしめるのも抱きしめられるのも日常茶飯事だった。もちろんあたしも。それが普通だと思ってたから、友達が驚いたことに驚いたもんだ。つまり、だから、動じない(早速使ってみる)のはそういう訳なんだけど…説明めんどいな。

疲れている。マネージャーの仕事ってものをやったことないから知らなかった。こんな大変だとは。慣れてないってのもある。しかーし何よりリョーマと話せる時間が少ないのだ!おまけに動き回っているので見つめる時間すらない。そんなんだから体力が有り余ってたって、気力がない。疲れてる。あいむたいやーど。今日英語の授業で習ったなー…。

あ、動じない理由、もう一つあった。未だ腕を絡ませたまま、あたしが黙ってて退屈だったのか頬をつっついてくる菊丸先輩を、首だけよじって見上げた。

「…先輩は、動じて欲しいんですか?」
「んーいやそうじゃにゃくて…たいていは男でも驚くよ?」
「だって菊丸先輩だし。これが手塚部長だったらすごくビックリ…いやビックリどころか怯えます」
「にゃははっ、確かに。想像できないけど!」
「ありえないことっスねー」

自分で言ってちょっと鳥肌たった。ごめんなさい部長っ。先輩は笑う。

よく色んな人に抱きついてるのを見てたし、不二先輩がそういう人だって教えてくれてたからわかってたんだよね。そういえば。あ、でもリョーマにまでやってるのを見たときは、めっちゃくちゃむーってしたんだっけ。あたし以外が触れるなんてやだやだ。そーだそーだこの人は敵!とか思ってたんだった。忘れてたや。
うーん思考がとびまくってる。やっぱ疲れてるよあたし。

「そもそもあたしは抱きしめられるより抱きしめたいんですー」
「え、俺を?やだエリーちゃんそんな…」
「はっはー先輩、ご冗談を」
「うわその不二に似てる笑顔止めてー!…おチビを、でしょ?」
「わかってんじゃないですか」

菊丸先輩はようやく腕をはなしたかと思えば、両手をほっぺたにあてて乙女ポーズをした。何言ってんだと笑ってみる。不二先輩に似てたようだ。そんなつもりはなかったけどまぁいいや。そう、今あたしが求めているのはリョーマだけなのだ。

「…ホントおチビのこと好きだねぇ」
「あいらぶリョーマ!ですぜ」
「あ、ねえねえエリーちゃん。もしおチビに抱きしめられたなら動じる?」
「えっ…」
「え?」
「リョーマに?」
「うんうん」
「…」
「(わくわく)」

考えたこともなかった。リョーマに、抱きしめられるとな。あたしが…リョーマに……?全身が、カッと、熱くなった。

「…そんなの……そんなの、宇宙までぶっ飛びますよ!」
「ぶはっ…と、飛んじゃうの?」
「光の速さで飛べる自信があります!」

まあリョーマに抱きしめられることは難しいだろう。でも、あたしからは出来るもんね。いつだって。ああもうジッとしてらんない。

「うあーちょっと会いたくなってきたのでリョーマのとこ行ってきますね!それじゃあ菊丸先輩…あ、なるべくもうリョーマには抱きつかないで下さいよー!」

一気に言い切って、先輩にちゃんと釘をさしてからさよならして、あたしは走り出した。会いたい気持ちそのままに。早く、早く、早く!


「英二、エリーちゃんと何話してたの?そんな笑って」
「いやもう…っく、…エリーちゃん面白すぎ…っ」
「人の話聞いてるかな」
「…ひっ、だからホントその笑顔止めて…」
「で、何なの?」
「ええっと…惚気られたって言うのかにゃ、あれ」
「ああ、越前くんのことを?」
「そーそ。不二が気に入ってるのもわかるー」
見てて飽きないと、視界の端でわーわー騒いでる後輩たちを評した菊丸に、
「それは、同感」
不二はふふっと笑みを浮かべた。




みんな二人が純粋に大好きなんです。Yes!ドリーム!

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