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Fool in Pool

「…エリー、なんで、アンタ、いんの」

つんつん、と軽く肩をつつかれ、後ろを振り向くと「やっほい、リョーマ」タワシ(棒付き)を持ちながら、ピースをしているエリーがそこにいた。状況がわからず、固まるリョーマ。エリーは棒タワシを振り回しながら、にこにこしている。数秒後、ようやく出た言葉が冒頭である。

リョーマが疑問に思うのも当然だ。今は体育の時間。基本、男女別々に行われる。今日は女子は体育館で体力テスト、男子はプール掃除をすることになっていた。予定通り、みな面倒臭そうに、汚いプールの壁やら床やら磨いてるなか。突如、男子ばかりの場所に飛び込んできた女子(一応)。そりゃあもうビックリだ。周りもざわめき始め、こっちに注目している。エリーはそんなのちっとも気にしない様子で、手をピースから親指を立てる形にし、きっぱり告げた。

「テスト終わって暇だから、こっそり抜け出して、手伝いに来ました!ていうかリョーマに会いに来ました!」

絶句した。何考えてんだ。会いに来た、だなんて、そんな。時間はあと数十分程度しかないというのに、いちいち?どんだけ馬鹿なんだこいつは…。どこから突っ込めばいいかわからず、黙っていると。前に立っていたエリーがすっと横に来て、皆と同じように壁をタワシで擦り始めた。

「何、してんの」
「ん?手伝いに来たって言ったじゃん。おそーじ」
「戻れ」
「え、何で」
「…わからないワケ?」
「うん」

またもや絶句。普通に考えて……そうだ、エリーは普通じゃなかった。常識が通用しない奴だ。詰まる所、突っ込むだけ、無駄?…しかし、リョーマは諦めなかった。

「先生に、怒られるでしょ」
「ノープロブレム!」
「ありまくりだろ」
「ないよ。だってさっきオッケーもらったし」
「…は?先生から?」
「うん。『ははは、来たからにはしっかりやれよ』だって」

三回目の絶句。黙ってプール内を見回す。エリーの出現に驚き、手が止まってる男子たちを一喝してる先生が見えた。…はぁ、と溜め息をはいてるリョーマをよそに、エリーはやけに楽しそうに手を動かしている。戻るつもりはないらしい。何か言うのは結局諦めて、自分もやるか、とリョーマものろのろと動き始めた。


時に水が飛び跳ねて、ズボンが軽く濡れたり、顔が汚れたり。歩きづらいし、変な虫はいるし、ごみやら草やらが一杯浮かんでるし沈んでるし。汚れがなかなか落ちなかったりもするし。プール掃除なんて、出来るならしたくないものだ。それなのに、エリーは笑っていた。いつも大抵そうだけど、今は一体どこに笑う要素があるんだろう。突っ込むことは無駄だとわかりつつ、聞かずにはいられない。

「ねぇ」
「うん?」
「何でそんな楽しそうなの」
「え、リョーマは楽しくないの?」
「メンドイだけじゃん、こんなの」
「確かに。疲れるしね」
「じゃあ何で」
「汚れが落ちるの見ると、何かわくわくしない?」
「しない」
「あたしはする。それにー」

また水が跳ねる。太陽の光が反射して、きらきら、きらきら。一瞬目を閉じて、すぐ開いたら、とてもとてもイイ笑顔をしたエリーがいた。

「リョーマが隣にいるしね!」
「………あっそ」
「うん」
「単純だね」
「おう、任せとけ!あ、そだ。いつかプール行かない?」
「は?まさかお前、プールの授業まで来るつもり?」
「ちっがーう!流石のあたしもそこまでしません」
「…」
「市内のプール、ってこと。夏休みあたりにでも。どうですか」
「…気が向いたらね」
「やったー! あ、チャイム」

授業の終わりを告げる鐘の音。道具を片付けながらエリーは、「リョーマっとプーッル!ふっふ〜ん」とそれはそれは上機嫌だった。リョーマは目を閉じて、そっと呟く。「…行くとは言ってない…」しかしもはやエリーの中では決定事項なのである。つまりはどうせ嫌だといっても行く事になるのだろう。そこまで考え、出そうになった溜め息を堪え、額を流れる汗をぐいと拭った。

暑い夏が、始まろうとしていた。



青学の体育事情とかプール掃除があるのかなんて知りません。笑

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