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それは単純な賭けだった

“テストで高い点数を取った方の言う事を何でも一つ聞く”

リョーマは了承した覚えはないと言い張ったが、相手はきっちりとってあると言ってきた。どうやら自分が寝ぼけてる際に聞いたらしい。録音もばっちりしてるぜ!と携帯を目の前に差し出してくる、賭けを吹っかけてきた張本人…エリーには、怒りよりまず呆れたもんだ。そこまでして何をさせたいんだと。

ふとリョーマは思った。たまには勝負を真っ向から受けて、勝つのも気分が良いかもしれない。やられているばかりは性に合わないし、こいつの面食らった顔を見てみたい。ただ、エリーの提案に素直に乗るのはムカつくので、

「英語だったらいいよ」
「へ?」
「教科」
「…ちょ、あたしめっさ不利じゃねえか!」
「じゃ、やらない」
「…背に腹は変えられんという事か…!わかった。その代わり、ちゃんと守れよ!賭けは絶対だぞ!」
「はいはい。そっちこそ」

そしてリョーマは勝った訳だ。余裕の100点だ。楽勝だった。これくらい、向こうじゃ小学生でも解ける問題。それでも我らがテニス部部長ではないが、油断せず行こうと思い、一応普段はしない見直しまでやった。

一方、ケアレスミスで99点をとったエリーは、返ってきたテスト用紙をぐちゃぐちゃに握り締めたまま先程から机に項垂れていた。表情は伺えないが、想像できる。一点差だから余計に悔しいのだろう。もし逆の立場だったらエリーは今、いつものあの憎たらしい笑みを浮かべていたに違いない。リョーマは内心でほくそ笑んだ。機嫌が良いので、珍しくこちらから声を掛けてみる。

「エリー」
「…んだよ」
「お前にしては頑張ったんじゃない?苦手な割には」
「……い、今は…今だけは褒められても嬉しくないよ…!」

皮肉を褒め言葉と認識するとは、こんな時でもおめでたい頭だ。と、エリーはいきなりばっと顔を上げたかと思うと、両腕で机を叩き始め、足をバタバタさせた。

「うがー!悔しい悔しい悔しいくーやーしーいー!ちくしょうあたしの馬鹿ああああ!」
「今頃気付いたの?」
「うぐ…っ。…うううう」

全身で“悔しい”と訴えるエリー。がくっと落ち込むエリー。わめくエリー。見ていて非常に清々しかった。立場逆転。反撃開始。さて何を命令してやろうか。いつもの仕返しに。今度は声を上げて、リョーマは笑った。


「…!」
エリーは負けて悔しかった。思い通りにいかないのも悔しかった。だけど、そんな思いは全部吹っ飛んでしまった。
(リョーマが、笑った…!)
試合中や自分を馬鹿にする不敵な笑みではなく、それはそれは楽しそうに。不本意ながらもそれは自分のせいだと思うと、一気に気分は高揚した。負けてよかったとすら思った。が、そのおめでたい頭が続いたのも束の間である。

「…何顔赤くしてるの」
「え、いや、その、」
「まぁ良いけど。それより、賭け忘れてないよね?」
「も、もちろん!」
「じゃ、早速言うけど、エリー」
「…うい」
「二度と俺に抱きつくな」
「…え」
「ホントは他にも一杯あるけど、我慢してやるよ」
「え、え、ちょ、」
「賭けは絶対、なんでしょ?」

その後、エリーの絶叫が教室中に響き渡ったのは言うまでもない。しかししっかりとそのリョーマの言う事を、エリーが守れたかどうかは、…これも言うまでもないだろう。




笑う越前に状況を忘れてときめく夢主ちゃんを書きたかったのです。単純で愛おしい子です。笑

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