dream | ナノ


commentary in brain

保健体育の授業だった。ビデオを見る予定だったけど機材の調子が悪いらしい。それを先生が直してる間、ヒマしてた女子数人がいきなり前に出てコントをし始めた。うん、なかなか面白かった。エロ本を持ってきた男子A、興味津々だがそうとは言わない男子Bの話。(元ネタあるのかな?)読んでるAの後ろからこっそり覗こうとするBの演技がとても上手かった。あの女子すげぇ。一同爆笑してる中で、あたしも笑いながらふと思った。

リョーマはエロ本とか持ってるんだろうか、と。極身近にそういう人はいる訳だし、ありえなくはない。テニスばっかの頭の片隅に、実はひっそりと…うむ、気になる。気になるぞおおお。こういうの好奇心が疼くって言うんだな。…よし!



(えーこんばんは、一ノ瀬エリーです。ただ今ドアの前に居ます!)
(部屋の主がお風呂に入ったのを先程見送ったばかりです。一緒に入りたいのは山々ですが、辛うじて我慢しました!)

そろりそろりと階段を上って、忍び足で廊下を歩いて、ここまで来た。気分は有能な女忍者!今宵も任務を密やかに確実にこなすのだ。おぉ何かカッコイイなあたし!

(ここで怖いのは、やはり彼にこのことがバレて怒られる事でしょう)
(それでももう止まる事は出来ません!いや、止まってはいけないのです!)

にやり笑って、ドアノブに手をかける。一応誰も居ないのを右見て左見て、確認する。…よし、大丈夫だな。固唾を飲み込み、一回深呼吸をした。

(では始めます。れっつさーち・エロ本!)
ドアを開けてその部屋に足を踏み入れた。さぁ、計画実行開始だ。

その計画と言うのは、至って単純。リョーマがいない間に部屋に侵入し、リポーターごっこも兼ねてエロ本ないか探ってみる。これだけ。計画と言うほどでもないか。まぁいいや。大事なのは遂行する事だ!リポーターごっこは、ただ普通にするだけじゃ面白くないしね。声に出すとバレる&怪しい人になっちゃうので脳内実況という形をとることにした。我ながらいい提案である。ゆっくりとドアを閉めて、見慣れた部屋を見回す。いつもと何ら変わりない。

(しかし今日は、その変わりない所から秘密を探るのです)
(果たして見つける事が出来るのでしょうか…期待と不安が混じりあってドキドキしてまいりました!)

さて、まずどこから探そうか。タンスや机の引き出しは、流石にここまでしてるあたしでも駄目だと思うから止めよう。て言って、そこにあったらどうしよう。うーん。

(…まぁ、まずはテレビ台を調べてみようかと思います)

物音をたてないように、さっきと同じく忍び足で近付いた。散乱しているゲーム機を踏まないよう注意して、しゃがみ込む。台の中を開けて、中のモノを色々ガサゴソ取り出してみた。

(見た限りでは、普通のゲーム機とソフトとビデオです。奥の方に隠している、ということもどうやらないようです)

ガックリしながら取ったものを元に戻す。いやいやめげるなあたし。まだ始まったばっかりだ。

(それに、最初から当たってちゃつまらないですしね。はい次ぃ!)
(今度はすぐ傍にある棚にいっきまーす!)



ポケットに入れていた携帯で時間を確かめた。

(開始十分が経過しました。成果はどうかと言うと、これがまたなかなか見つかりません!)
(一通り部屋の中を調べましたが、それらしきモノすら見当たらなかったと言う!)
(よっぽど上手い所に隠しているのでしょうか?手強い、手強いです越前さん!)
(これなら彼は『学校から帰ったら何故か隠しておいた筈のアレやらコレが机の上に置いてあった』と言う悲しい経験をせずに済みそうです!)

脳内実況が盛り上がってる中で気付いた。時間をかけすぎると危ないじゃん。風呂が長いリョーマと言えど、いつ来るかはわからないし…くそぅ。

(次で残念ながらも終わろうと思います。では、ベッドへゴー!)

まぁ諦める気はさらさらないけど!また後日、だな。疲れを癒すために、ばふっと柔らかいシーツへ顔を埋めてみる。

(…越前さんのいい匂いがします。暫し堪能しようと思います!)

思った所で時間がない事を思い出し、しぶしぶ顔を上げてシーツを捲った。…ないな。速やかに元に戻す。どうしよう、やっぱないのかなー。うー悔しい。…ハッ!そうだ!そういえば!

(盲点があった事をお詫びします。隠す場所と言えば定番中の定番をすっかり忘れておりました!…そう、ベッドの下を!)

さっそく腰を下ろし、覗き込んだ。暗くて何も見えない。そうだ、と携帯を再び手に取って、懐中電灯よろしくそれを使って中を照らした。

(…おおーっと!?何やら茶色い物体が見えます!かなり怪しいぞこれはァァー!検証してみます!)

携帯を置き、それを両手で取り寄せる。触感は硬い。形は四角い。

(あぁーっ!ダンボールです!温州みかんと書かれている、普通の大きさのダンボールでした!実に普通すぎて逆に困るぐらいです!)
(ずっしりとしてた事から考えるに、中身は昔のガラクタか何かでしょうか?)

だとしたら、目的のモノではない。しかし中身が気になる。何なんだこれ。ガムテープも貼ってないし。えぇい。

(主旨とは異なるものですが、これも何かの縁、と言うかもう勢いで開けてみます!)

乾いた唇を舐め、バッと思いっきり開けてみた。それらを見て、流石のあたしもこれには言葉も出なかった。ダンボールにぎっちり入っていたのは、何と、エロ本。これは…また………。数秒停止後、頭をぶるぶると振って調子を取り戻した。

(中継が途切れてしまった模様です。すみませんでした。再開します!)
(ダンボールの中身は捜し求めていたエロ本でした。ついに、ついに発見しました!苦節二十分!)
(しかし自分から探したくせに何とも言えない微妙な気分だ!)
(と言うか展開が予想外すぎて、どう反応したらいいものか全くわかりませーーーん!)

とりあえず一冊手に取ってみる。適当にページを捲ってみた。

(ボンッキュッボンッのおねーさんのほぼ裸体に近い格好!何て破廉恥なんでしょうか!一目でエロ本と分かるほどエロいです!)
(越前さんはこういうモノが好きなのでしょうか?多少ショックを受けつつも、この胸の高鳴りは何なんでしょう!)

それを床に置き、再度ダンボールの中から別の本を取り出す。やはりエロ本だ。…ん?おいおい…。ふと出た考えにまさか、と否定した。いやでもこれ…うーん……よし!取れる分だけ中身を取ってみた。床に積んで、中を覗く。あたしはまた驚く破目になった。

(こ、これは…何という事でしょう!中が全部エロ本じゃないですかっ!)
(ししししかも奥にいくにつれ表紙がハードです!明らかに教育上悪い!お子様が見てはいけません!)
(何冊あるんでしょうか…。ここまでくると、いっそ清々しい!越前さんに一昨年だったかの流行語を贈らせて頂くッ!『どんだけー』!)

こんな状況でどこか冷静に、そして熱く脳内実況しているあたしは将来立派なリポーターになれるかもしれない。いやなる気ないけど…って、え!?

(やばーい!これはやばいぞ!こちら、一ノ瀬エリー!ただ今非常に焦っております!)
(それもそのはず、部屋の外の階段の方から越前さんの足音が聞こえてくるではないかぁー!)
(え?何故聞き分けられるのかって?それは企業秘密…って、そんな場合じゃなぁあああああい!)
(エロ本が、わたくしめの傍にはエロ本が無数に散らばっております!確実にひく光景です!)
(いやその前に勝手に部屋入ったってことで怒られ…っ)


「エリー?お前勝手に入って…て、何してんの!?」
「あ、はははははは」

パニくってる間に、リョーマは明かりで気付いたのか足を速めて部屋に入ってきた。ばっちり見られてしまった。こりゃもう逃げられない。力なく、笑うしか、なかった。
リョーマはすぐ冷静になって、こちらに近付いてきた。そして先程のあたしのように落ちていたエロ本を一冊手に取って、大きな目をもっと大きく見開かせた。え、何その反応。

「…な、に、これ」
「……え、君の、じゃ、ないの?」

違う、と呟いて未だ愕然としているリョーマに少しホッとした。じゃあこの相当な数のエロ本の持ち主は…この家でこういうの読むなんて、一人しかいない。

「南次郎さんか…」
「は?これ、親父のなの?」
「それ以外考えられないっしょ」
「何で、ここに」
「うーん」

まぁとりあえず座れ、と床をぽんぽん叩く。珍しくリョーマはそれに素直に応じた。よっぽど動揺してるのかな。そら自分のベッドの下からこんなん出てきたらなぁ…。
リョーマは、他の本も手に取ってみたり、ダンボールの中を覗いてみたりした。みるみる顔が赤く染まっていった。まぁリョーマも健全な男子中学生だしな。うん、正直、こんな時に何だけど…めちゃくちゃ可愛い…っ!

「…あのクソ親父…!」
両拳を強く握って、怒りでわなわなと身体が震えているリョーマ。そのオーラに、開きっぱなしのドアから入ってきたカルピンが怖がって、逃げ出してしまった。タイミング悪かったなカル…可哀相に。

あたしはあちこちに放置されたエロ本を回収する事にした。見てて気持ちがいいものではないし。だーっと集めて、どんっとダンボールの中に入れた。きっちり閉めて、その上に手を置き、ふんぬのぎょーそーをしているリョーマに問いかける。

「で、これどーすっべ?」
「…捨てる」
「勝手に捨てていいのかよ」
「俺の部屋にあるもの俺が捨てて何が悪いの」

おぉう。苛立ちをたっぷり含ませた声プラス射抜くような視線に身を竦めた。あたしとしては、リョーマの怒りの矛先が南次郎さんにいってくれてたら構わない。このまま勝手に部屋に入ったこととか、これを見つけた経緯とか聞かれることなく有耶無耶になってくれたらね!ゴメンなさい南次郎さん。見つかったのが運の尽き、です。

「ねーリョーマ」
「何」
「思いついたんだけど、どうせならこれをネタにして…」



(さ〜て帰ってまいりました、実況の一ノ瀬エリーです!)
(わたくしの好奇心からあんな事態になるとは誰が予想できたでしょうかっ!)
(あの後、越前さんは提案通りに南次郎さんを脅し、相当のお金を得た模様です!当分買うものに困らないでしょう!)
(しーかし!何と発見者 兼 発案者であるわたくしには一銭も分けてくれなかったのです!訳を問うとこう返されました!)

――「当然でしょ?」

(理解が出来ず丸三日考え込んでようやくわかりました!つまり、金を渡さないかわりにあの件に関してお咎めなしということかぁーっ!)
(まぁお金より越前さんの機嫌が大事なので、良しとしときましょう!それに、)

実はあのエロ本の宝庫をこっそり携帯カメラで撮って、軽い気持ちで某雑誌の面白写真大賞に応募したら見事受賞したのである。良いのかよオイ!と突っ込みつつ、あたしも賞金ゲットで懐が暖かくなったのは内緒。どうせリョーマの為に何かしら使うだろうし。今回の収穫は、もう一つある。

(何といってもあの越前さんの赤らめた顔!非常に貴重かつ魅力的です!思い出すだけでご飯十杯はいけますっ!)
(流石に本人の手前、写真を取る事は出来ませんでしたが、脳内にバッチリ焼き付けました!これは永久保存版だァァーー!)
(それでは皆さん、またお会いましょう。さようなら!今度は越前さんの行動実況もしてみたい所です、一ノ瀬エリーでした!)




夢主ちゃんキャラ崩壊の巻。

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