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アンビバレンス

「寒い…」

部活が終わり、一人の少年と一人の少女がくっついたり離れたりしながら家へと帰ろうとしています。運動している時は心地よかった冷たい風がビュービューと吹きつけてきます。汗が冷えて、どんどん寒くなってきました。
少年がぶるぶる身体を震わせながらポツリと呟いた言葉に、隣を歩く少女は待ってましたー!!と言わんばかりに両腕を大きく広げ、少年の前に立ちはばかりました。にこにこと、良い笑顔をしています。道を塞がれた少年は、その整った顔を思いっきり顰めました。

「…何」
「やー、寒いんでしょリョーマ」
「だから?」
「暖めてあげようではないか!」
「…」

さぁあたしの胸に飛び込んで来―い!!そう何故か得意げに言う少女の横を、少年はすたすた無言で通り過ぎました。
まだ冬の入り始めなので、これからもっともっと寒くなっていくでしょう。少年は憂鬱な気持ちで、すっかり冷たくなった手に息を吹き掛け擦り合わせました。
その時、どんっと背中へ衝撃が来ました。前のめりになった体勢を戻し、何事もなかったかのように、少年はまた歩き始めました。少女に抱きつかれながらも上手く歩ける技を、少年はいつしか身につけてしまっていました。そんな自分が、少年は何だかとても嫌だと思いました。そんな事は露知らず、少女は吠えます。少年をぎゅっと抱きしめて。

「人の好意を無視するな〜」
「エリーのは好意じゃなくて、ただの私欲でしょ」
「うっ…し、私欲の中に好意があるんだよっ。あたしは満たされリョーマは暖かくなって、これぞまさしく一石二鳥!」
「どこが」

離れろ、と言う気持ちで少女の腕を振り払いましたが、あまり効果はなかったようです。少年は自分の肩に乗っかっている憎たらしい顔をギっと睨みましたが、少女はそれを怖がることなく話し続けます。

「大体さ、夏は暑いから抱きつくなって言っておいて、冬に寒くなった時もダメって何でよ」
「ウザいし重いからに決まってんじゃん」
「あ、今、あたしのガラスのハートが砕け散った…っ」
「砕け散るの何も、最初からそんなのお前の中にないだろ」

少女が胸を押さえて口にしたその言葉に、少年はさらりと言い退けました。ガーン!とショックを受けた少女は少年から腕を放し、自分の顔を手で覆い、「シクシク」と自分で言いながら泣き(マネを)始めました。無論本気ではないのをわかっているので、少年は相手にしません。

「…エリー、先行くよ」

振り返り、すでに50mほど距離が出来ているのに、いじけて歩こうとしないその姿を見て、少年は少しイライラしながら声を上げました。
(てか、俺が待ってる理由ないか)
四方八方から、冷たい風が襲ってきます。少女のせいでズレたマフラーをきちんと首に巻き直しました。早く家に帰ってちゃんと温まりたい。そう思い、踵を返した所で後ろから足音が聞こえ、背中に衝撃が来ました。実に本日二回目です。

「…重いんだけど」
「あーあったけぇー…。リョーマの体温って、高いよね〜」
「そっちもでしょ。てか、人の話聞いてる?」
「まーまー気にしない気にしない。リョーマもあったかいっしょー?」

喜びか寒さか顔を赤くしつつ笑って、少女は再びぎゅーっと抱きしめてきました。

非常にムカつくけれど、それは事実でした。確かにあたたかいのです。だけど、だから、ムカつきます。少年はプライドの高い子です。少女の思い通りにさせるなんて、流されるなんて、許せません。全力を出して、抵抗しました。

その腕から逃れた少年は、すたこらさっさと家に向かって歩いていきます。少女は少しビックリして立ち止まったけれど、(照れなくても良いのに。かわいー)と先程の少年の荒い行動を都合よく解釈をして、また走って、少年へ抱きつきに行きました。

家につくまで二人は、何度も何度もその一連の行動を繰り返したのでした。




…越前の肩にかけてるであろうテニスバッグは何処にいったんでしょーねっ。

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