dream | ナノ


36℃+36℃=?

「…エリー?」ぴたり、歩を止めて彼は呟いた。
「うん?」名を呼ばれた彼女は首だけ振り向いた。

季節はゆるやかに確実に、冬に移り変わってきた。肌で感じる、空気の冷たさ。そんな中で朝、温かい布団から出るのは誰もが辛いもの。リョーマも例に漏れなかった。が、母の声と目覚ましの音で渋々と起きた。顔を洗い、着替え、リビングに向かった。ふわぁ、とあくびを一つした後、テーブルの下に見えたモノに息を呑んだ。青い物体がそこにあった。何だあれは。よく見ると、…毛布?誰かが毛布を被ってる?誰かって、一人しかいない。こんな事をするのは。

「…何やってんの、お前」
「あ、おはよリョーマ」
「はよ。で?」
「え?」
「何やってんの」

溜め息をつきながら、椅子を引いて座った。そのまま下を覗き込むと、毛布を頭から被って体育座りをしているエリーの顔と。「これであったまってんのー」先程はその身体で隠れて見えなかったが、小さいヒーターがあった。ここがやけに温かく感じたのはそのせいか。

「その格好で?」
「うん」
「使用方法間違ってない?」

毛布とは普通、夜眠る時に被るモノじゃなかったのか。

「あー…だって寒いんだもん」
エリーはまた顔をヒーターの方へ向けた。そしてずれた毛布を掛けなおして、両手をそれに当てる。

「ぬくぬくー」
「それで部屋からこっちまで歩いてきたわけ」
「おー」

リョーマも顔を上げて、姿勢を整え、テーブルに頬杖をついた。

「…恥ずかしくない?」
「全く。だって寒いんだもーん」

返ってきた答えに呆れる。全くこいつは、いつも人の意表を突いてきて。季節は変わっても、エリーの飄々っぷりは変わらないようだ。

「あら、おはようリョーマ」
「…おはよ、母さん。何かこいつに突っ込まないの?」
「え?」

朝ごはんを持って倫子が現れた。その言葉に首を傾げ、とりあえず皿をテーブルに置き、リョーマの指された先を見る。それに少し驚いた後に、声をかけた。

「エリーちゃん?」
「あ、おはようございます倫子さん」
「おはよう。そこにいたのね」
「知らなかったの?」
「降りてきた気配はあったのに、姿を見せないから」
「あはは。すんません」
「阿呆」

まあ普通、テーブルの下でこんな格好をしながらいるとは思わないだろう。倫子はくすくす笑いながら、台所へ戻っていった。リョーマは朝ごはんを口にしようとした所で、ふと思って、自分の足元にいる人物に問うた。

「…食べないの?」
「え?あ、ごはんか。食べる食べる。腹へった」

椅子を動かし、ようやく出てきたエリーは毛布をかぶったままだった。その格好が好きなんだろうか。朝から脱力したリョーマだった。

「りょーまー」
「…何」
「いいこと思いついた!」
「は?」

頂きますと両手を合わせ、食べ始めた。途端、まだ立っているエリーに声を掛けられる。思わず手を止めた。嫌な予感。何だ?何される?振り向こうとしたその時。

「えいっ」
「…っ!?」

エリーがバッと毛布の端と端を掴んで両腕を広げ、飛びついてきた。そして抱きすくめられる。自然と二人で毛布に包まる形になった。悔しいが動けない。リョーマは首だけ動かし、身体を拘束している人物を睨んだ。にゃろう。

「何すんだ!」
「いやぁー、ね。ふとやりたい衝動に駆られて」
「じゃあ俺も、エリーを殴りたい衝動に駆られていい?」
「それ既に駆られてね?じゃなくて、まぁ理由を聞け」
「…理由?」
「うん。まずその一、朝の抱擁…待て待て落ち着けって」
「離せ!」

上げようとした腕を「だめー」と制された。楽しそうな声が尚イラつかせる。そっちからやっておいて落ち着けとは理不尽だろう。

「まぁまぁ。その二、これ重要」
「…?」
「二人でいればもっとあったかい!」

いい顔でそう告げて、抱きしめる腕の力を強くしたエリーの胸を、リョーマは暫く呆然とした後に我に返って「…ふ、っざけんな!」と思いっきりひじで殴った。
ぎゃあぎゃあ騒ぐ子ども達を、今日も朝から元気だな、と見ていた大人組は微笑ましく思うのであった。

「ところで二人とも、遊んでると遅刻するわよ」
「「あ」」




倫子さんの口調がわからない。

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