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おまじない

「リョーマー。風呂出たよー」
「んー。……ん?」

ドアからほんのりピンク色に染まらせた顔を覗かせながら、エリーが告げた言葉を聞き、じゃあ入るか、と読んでいた本を閉じてリョーマは立ち上がった。そして、絶句した。部屋に入ってきたエリーの姿…いや、服を見て。
青と白の縞々模様のパジャマ自体は至って普通なのだが。問題は着方。裏返していたのだ。上も下も。

「…何してんの、お前」
「ふふー。さっきのおまじないをさっそく実行してみました!」

語尾に星マークつけながら、どう?と聞かれても困る。リバーシブル式ではないので、普通に変だ。気にせず楽しそうにしてるエリーはやっぱり可笑しい、絶対。リョーマは思った。

おまじない、というのは、先ほど夕食時に見ていたテレビでやっていたアレの事だろう。平安時代からのおまじないクイズ。正解率3%。それは,寝巻きを裏返して寝ると好きな人が夢の中に出てくる、というものだった。かの有名な女性歌人もやっていたらしい。効果はあるかどうかは言わずに、番組は次の問題へと移っていった。何とも信憑性が薄い。
けれど、テレビを見ていたエリーの眼がとてもとてもキラキラとしていたのを、覚えている。

「マジでやったのか…」
「おう、大マジ!ちなみに念には念を入れて、パンツも裏返しだぜ!」
「ブッ」

親指立てながら活気溢れた顔で言われ、思わず吹いてしまった。恥と言う単語はエリーの辞書にないんだろうか。本気でやってるんだから恐ろしい。

「聞いていい?」
「う?」

何だか頭が痛くなってきた気がする。ので箇所を手で押さえつつ。出そうになる溜め息を堪え、代わりに深呼吸をしてみた。そして一気に、早口で、捲くし立てた。

「学校もクラスも席も部活も一緒。挙句の果てには同じ家に住んでるのに、夢の中でも俺に会いたいワケ?」

ビシッ、と言ってみた。(リョーマにとっては不本意ながら)ずーーーーっと一緒にいるのにもっと、と求めるエリーがわからなかった。
その問いに、エリーは一瞬きょとん、として。でもすぐにいつもの笑顔になって、答えた。

「そんなの、当然じゃん!好きな子とずっとずっと、夢の中でも会っていたいと思って何が悪い!」

悪びれることなく、リョーマの目を見て堂々と、言い切ったエリー。…こうもハッキリ言われると、何も言えなくなるもんだ。リョーマは諦めて、堪えていた溜め息も出して、静かに部屋を出て行こうとした。

「っちょ、聞いといて無視かよ!」
「もういい。俺、風呂入る」
「あ、んじゃリョーマもパジャマ裏返して着てね」
「…絶対、やだ!」

…頼むから夢の中まで押しかけないでくれ、と思った。熱意は認める。しかしそれに応えることは出来ない。
それでもエリーは明日も明後日も、変わらずその想いを全身全霊で伝えてくるだろう。だって、リョーマの事が好きだから!
さて、実際におまじないが効いたかどうかは、また別の話。

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