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相合傘

リョーマは学校の昇降口に佇み、空を見上げていた。早く風呂に入って汗でべとついた身体を洗いたいし、お腹も減った。だけど帰れない理由が、リョーマにはあった。それは。

「リョーマーお待たせ! さ、帰ろ」

教室に忘れ物を取りに行っていたエリーが戻ってきた。走ってきたようで、息が荒い。そしてその手には、今正にリョーマが望んでいたモノが握ってあった。

「わー、すげぇ雨。置き傘してて良かったー」
エリーも空を見上げる。

部活が終わった午後7時現在、天気は雨。すでに日は暮れ、辺りは真っ暗だ。他の生徒の姿は無く、しんと静まった校舎に対して、外は降り続ける雨の音でうるさかった。
リョーマは傘を持っていなかった。エリーが教室に忘れたモノとは傘のことだったらしく、自然と視線が傘にいく。その視線に気づいたエリーはチャンスとばかりに話を吹っかけてきた。

「リョーマ」
「…何」
「早く帰りたいよね」
「そりゃあね」
「でも傘が生憎一本しかないんだよなー。これはもう相合傘をするしかない、よね!!」
「イヤ」

ちょうどその時雨が弱まった。その隙を見逃さす、リョーマは迷わず外へ出る。焦ったのはエリーだ。慌てて傘を広げ、早足で外へ出た。

「ちょ、越前さん!!」
「何」
「いや『何』じゃないから!濡れるよ!?つかもう濡れてるし!」
「別に良い」
「良くなーい!!」

追いつき、早く歩いている足はそのままに、リョーマを傘の中に入れる。するとさらに早く、傘から逃れるかのようにリョーマは走った。

「おおいあたしと相合傘はそんなに嫌かよ!軽く泣いちゃうぞ!?」
「泣けば?俺 絶対嫌だし」

走りながら口論する二人。傍から見ればかなり怪しい。それでも下校生徒の視線も気にせず、二人は走る。
リョーマにとって、【濡れる>>>エリーと相合傘】らしい。エリーの思い通りになるのが濡れることよりも嫌、と言う気持ちが大きいのだろう。
目元に浮かぶ涙を押さえながら、エリーは悩んだ。相合傘はしたい。だけどリョーマを濡らすなんて事もしたくない!ならば、自分が濡れてでも…っ!
そんな結論に至り、エリーは傘を渡そうとするが、それすらもリョーマは毅然として拒んだ。

「あ、ひょっとして『お前が濡れるなら俺が濡れてやるZE★』とかそんな感じ!?」
「そんなこと、微塵にも思ってないから安心して」
「…っじゃ、じゃあ何で!相合傘するワケでもないのに!」
「…何でも!」
「そんなの理由にならないー!」

あれこれしてる間に、強い風が吹いた。エリーは油断していたため、傘を持つ手が緩んでいた。結果。ビュォォオオ〜〜〜。

「「あ」」
傘は瞬く間に空の彼方へ飛んでいってしまった。まさに「あっ」という間の出来事だった。

「「……」」
足を止め、傘が舞い上がった方向へ、半ば呆けながらエリーとリョーマは顔を上げる。そんな二人を容赦なしに、雨はまた強まってきた。雨音が、静寂を裂く。
しばらくした後、ポツリとリョーマの口から出てきたのは文句だった。

「…エリーの所為だ」
「え、あたし!?」
「身体びしょびしょなったし…」
「リョーマが相合傘してくれないから悪いじゃんー!」
「うるさい。お前が全面的に悪い」
「超理不尽ーーー!!!!」

口喧嘩をしながら、その場に立っていても仕方ないので歩き始めた。
全身濡れていて、髪やら制服やら張り付いて気持ちが悪い。走ったり大声を出したりで無駄にエネルギーを使ったせいで余計に腹は減って。頼みの傘はどこかへ消え、雨はやむ気配なし。

「…今日は厄日か?」
「…さぁ」

次第に何だか笑いすら込み上げてきた。あまりにも馬鹿馬鹿しくて可笑しくて。声を出してエリーは笑った。リョーマもつられて、薄くだが珍しく笑った。二人で顔を見合わせて、また笑った。

「…走って、帰るかぁー」
「ん」
「何か青春って感じだな!」
「…バーカ」

家まで競争しながら帰る途中、(いつか絶対相合傘するぞ!!)とエリーは、黒雲からチラリと覗く月を見上げながら誓った。

「「っくしゅん」」
…明日は二人揃って風邪襲来。かもしれない。

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