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bathtub

何気なく見やったバスタブに、黒い何かがあった。
葉っぱかな、でも何でこんなところに、と思い触ってみると、

―――バサッ

「〜〜〜っっっ!?」
驚いたエリーは思わず風呂場を飛び出した。

*

「うわあああああリョーマリョーマリョーマー!!!」
「…エリー、うるさ……………〜〜〜っ…!?」

奇声を発しながらこちらに向かってくる人間がいたら、どうするだろうか。
しかも裸だったら。それもマッパだったら。しかも一応異性だったら。

「アンタ何してんの…っ!!」
リョーマは顔を背け、頭にかけていたバスタオル(風呂上がりだったのだ)をエリーに突っぱねた。

「へ?…あ、」
自分が何も着ていないことにようやく気付いたエリーはタオルを受け取り、

「いやいやそれよりリョーマ!聞いて!」
「それよりじゃない!早く隠せ!!」
…珍しく大声を出すリョーマに気圧され、しぶしぶタオルを身体にまいた。

「これでおけ?」
「…ちょっとアンタそこ座れ」
リョーマはすぐ下を指さした。

「え」
「座れ」
「…は、はい…」
またも気圧されたエリーは正座をして、複雑な表情をしているリョーマを見上げた。

「あんた、自分の性別ちゃんとわかってんの?」
「え、だってあたしあんま性別にこだわらないで生きてきたし…父ちゃんや母ちゃんも気にしない人たちだし…」
「…一応女なんだから、一応は」

そんな格好で出てくるな。

リョーマは常識無しの彼女にわりと真剣に諭したつもりだったが、エリーは聞いていなかった。何故ならエリーから目を背けたまま言うリョーマは、ほんの少し顔を赤らめていて、まあ何だ、正直すごく可愛かったからだ。しばし真顔になった後ににやけた。そして抱きついた。

「っ!」
「もーーリョーマ可愛い!可愛い!!」
「〜〜抱きつくな!」
「いてえっ」

バスタオル一丁のエリーに抱きつかれてしまったリョーマは慌てて身体を引きはがそうとした。殴ったし蹴った。さきほど一応女なんだからと言ったのは何だったのかとエリーは誠に遺憾であった。

「ひでえや隊長…」
「…ていうか、何の用があってわざわざマッパで風呂から出てきたわけ」
「あ、忘れてたそうだそうだちょっと聞いて聞いて聞いて!?」
「落ち着け」
「いやこれが落ち着いていられないことがあったの!とりあえず来て見て聞いてよ!ほら風呂に行こう!!」

そう言ってエリーはリョーマの腕を掴んで風呂場へと連れていく。
最近は逆らうのがもう面倒くさくてズルズル流されているような気がするリョーマであった。

*

「なにこれ」

バスタブの中には、少しだけ水が張っていた。その中にぽつんと浮かぶ黒い物体。
エリーが言うには、風呂に入ろうとしたときに見かけ、触れようとしたら動いたらしい。

「あたしのにっくい奴かと思って逃げちゃったんだよねー」
「だからって服も着ずに…」
「服脱いだ直後だったからしゃーないやん」

リョーマとしてはその物体よりエリーのモラルの方が気になるというものだ。
しかしこれが何なのか解明しない限り、こいつは納得せず騒ぎ立てるのだろう。めんどくせえ。
無言でリョーマはそれをそっと手で掬った。

「うわっ…君勇気あるな…」
「…なにこれ」
「あたしに聞かれても…某番組に投稿でもする?」
「アホ」

指でつっつくと僅かな体温を感じた。濡れた毛の感触もする。観察していると、毛に埋もれていたつぶらな瞳と目が合った。

「「…鳥?」」

*

小さい生き物の扱いなどわからぬ二人は頼みの綱、倫子に託した。
「きっと窓から迷い込んだのね」
小鳥に餌をやりながら倫子が苦笑する。

「うわーうっかり入ってたら押しつぶしてた可能性あるよね…こわっ」
風呂から上がって色々スッキリした顔もちでエリーが言った。
「母さん、それどうするの」
少々疲れ気味な様子でリョーマが言った。

「そうね…あとで外に放しておくわ」
「お願いしまーす…気をつけろよーお前」
エリーが小鳥の頭を指先で撫でる。見慣れると何だかかわいいものだ。

「…エリー、あんたホントに潰さないでよ?」
「ちょ、怖いこと言わないでよ!あたしこの歳で鳥殺しになりたくないよ!」
「この歳って何だよ」

言い合いを始めた二人を倫子はクスクスと笑いながら眺めていた。






去年実際風呂であったことpart2.あの鳥にはほんとビビりました。

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