嘘だ。こんなの嘘に決まってる。叫びだしたいくらいに、今すぐこの場から逃げ出したいくらいに、眼前で血まみれで横になる愛しいひとの姿を否定したかった
肩で苦しそうに息をして、痛みに眉を寄せる。そんな姿に我に返った私は、着物が破けるのも泥まみれになるのも気にせずにただ駆け寄った。情けないことに、喉から声が出てくれない。ただ力無く土方さんの血にまみれた手の平を取り、強く握る。
私のせいだ。
真選組だという自覚を単純に容易にして、大丈夫だからと1人で出歩いたばかりに。私の後を追ってきた土方さんが、私を庇って「天誅!」と叫びながら出てきた浪士に肩を斬られた。
そこから先はなんとなくしか覚えていない
土方さんは私を守ったんだ
土方さんは、

「おい、…こんな時くらい、名前で呼べ」

目に浮かべた涙を拭われる。「血がついちまったな」なんて笑う土方さんに、また涙が零れてしまった

「怪我はねぇか?」
「‥うん、」
「良かった。…………なあ、煙草持ってねぇか?」

こんなにすんなりと土方さんが喋れているのが不思議なくらい、本当に酷く深い傷。真選組の救護班が駆けつけるまでもう少し。土方さんの手のひらを頬にくっつけ、首を横に振ると残念そうにそうか、とまゆを寄せた

「口が寂しい」
「…、」
「……目ェつぶれ」
「土方さん」
「……」
「とー、しろ…っやだ…、死なないで…っ」

まるで最期のような。そんな何処か急かした様子の土方さんが今にも居なくなっちゃうんじゃないかって、怖い。ドクドクと波打つ血が止まらなくて、段々と力の入らなくなっている手のひらが離れてしまいそうで、怖い。
いやだよとうしろう。何処にも行ったらいやだよ。

す、と頬を撫でられ、そのままぐっと頭を引き寄せられた。
耳元に触れる土方さんの息にドキンと心臓が高鳴る


「お前が無事で良かった。お前は俺の全てだからな。

…愛してる、」

「!、とーしっ……ンッ」


唇を唇で塞がれる。侵入してきた舌は血の味がした。




最期のキスは甘い鉄の味
(土方さん、土方さん、土方さん!!‥うわぁああああああああ!!!)
あなたを愛していました
あなたを愛していました、


企画「最期の恋は叶わぬ恋となり散り果てた」様へ提出

 
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