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韻は盈のみを引き連れ、異民族の小さな集落を訪れていた。盈の顔色は、いつにも増して悪い。
「……あの」
盈は言葉を詰まらせる。
「お前は来なくても良かったのに」
韻はニヤリと隣を見遣るが、盈は今にも泣き出しそうな情けない顔をしていた。 直談判をしに、韻は一人で乗り込むつもりでいた。 それに何故だか護衛との名目で盈がくっついてきたのだが、如何転んでも護衛にはならないだろう。
「何があるか解りません。いざとなれば、私が……」
「盾にでもなるのか? 余計なお世話だ。私は勝算が無ければこのような無謀な事はしないよ」
盈は信じられないと言った目つきで韻を見上げた。 盈との付き合いも暫くになるが、韻の突っ走る面しか見ていない。何か考えているとは思えないのも仕方ないか。 韻は苦笑した。
「直談判とは、女のくせに見上げた度胸だ」
娵拏(シュダ)族の族長は存外若い男だった。韻と同年代だろう。 すんなりと集落の中央にある包の中に案内され、族長と面会が許された。
「娵拏族は女だからとか言った差別は無いと聞いていたが、族長の康黎安(コウレイアン)殿がそれでよろしいのか」
ピリピリした緊張感が包の中一面に充満しているが、韻は臆する事なく族長の正面に腰を下ろした。 その背後に盈が弱々しく立ち、さらに後ろの入口付近には二人の屈強な男が剣の柄を握り締め、いつでも斬りかかれる体勢でいる。
「いや失礼。中夏の女性では珍しい度胸だと思ってな……。それで、今回は何の用だ」
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