「私はお前に命を助けられた。だからこそ、全てを背負って死なねばならん」

 言いながら、張韻は剣を持ち上げる。

「天下に私はおらんでも何とかなる。だが、お前がいなくては定まらぬ」

 ふっと、張皖は笑みを漏らした。
 何処かで同じような言葉を聞いた。
 今度は失う訳にはいかない。

「残念だが、罪は別の形で償ってもらう。……俺の兄弟になってもらおうか」

 張韻はぽっかりと口を開けたまま固まっている。
 間抜けな顔だと、張皖は笑いを堪えた。


 世の理に『同姓娶らず』とある。
 同じ姓の人間との婚儀は倫理を外れた行い……つまり不倫であり、忌むべき事であるとされる。
 それでも張韻を特別な存在としておきたかった。
 娘として迎えても良いほどの歳の差があるが、敢えて義妹を選んだのは、二人の間に壁を作りたくなかったからだ。


「誰にも文句は言わせんよ……。お前にも、だ」


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