現れた張韻は、立ち上がりざまに男へと切り付け、激しい剣劇が始まった。

「紅藍、何してる」

「黙ってろ。これは私の問題だ」

 言いながら繰り出した蹴りが、空を切る。が、瑩の頬に一条の赤い筋が浮き上がった。

「叔父から聞いた。私の故郷が異民族に攻められ、滅びた原因……それがこの男、張瑩の仕業だったとな」

 耳をつんざく鉄が搗ち合う音が響く。
 張韻の剣を、瑩は片手で軽々と受け流す。
 張韻が女である事を差っ引いたとしても、齢67になるはずの男がこのように動けるものなのだろうか。

「ここは、帝となる者以外入る事は許されぬ場。賊は死罪となる――」

「ぬかせっ! 無駄に戦を起こすだけの人間が国を率いてみろ。滅亡しか無い。お前にそんな事をする資格はない! それこそ、お前のが罪人だ!」

 取り残された張皖ははっと我に返り、再び剣を持つ手に力を込めた。

 張韻は復讐に燃えている。
 ならば、俺は如何なのか。
 李家の惨状を思えば……。
 だが、やはり唯一の親ではないか――
 まだ、迷いがある。

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