故郷
 都から遥か北方の、国境も定まっていない地域に近い場所。
 そこは北方異民との諍いが絶えず、常に民は男女の境無く、皆武器を手にしていた。
 定期的に官軍の討伐隊が組まれ、一時だが静かになる。ただ、最近は中央の政が忙しいらしく、官軍出兵の報は聞かれなくなった。
 そうなると異民族の活動は日に日に活発となり、個々での防衛はし切れなくなる。
 張韻の故郷も、そんな世情の中、異民族の進攻の波に呑まれた村の一つだった。



「隣の村まで。さぁ、早く」

「嫌だ。私も戦う。あんなの、いつものように蹴散らしてやる――」

 暗い室内に、男女の声が響く。
 声の主は窺い知れないが、女の声にはまだ幼さが垣間見れる。少女と言える年頃か。
 男は困ったように溜息を吐く。

「良いか、阿韻……いや、紅藍。お前ももう大人だ。だから、その命に責任がある」

 今までの声音とは変わり、低く、危険な音が含まれている。
 紅藍と呼ばれた少女は一瞬、身を強張らせた。

「逃げろと言っている訳じゃない。我々を救う為に、援軍を呼んで来て欲しいと言っているんだ。解るね」

 暫しの沈黙が流れ、紅藍は頷いた。

「よし。いい子だ。流石私の娘。良いかね、振り返らずに影雋に乗って西へ行くんだ」

 再び暫しの沈黙の後紅藍は頷き、一目散に部屋を駆け出して行った。


 影雋とは紅藍の父の愛馬で、影のように黒く、優れた馬と言う意味の名がついている。
 父以外の人間には心を開く事の無い、気位の高い馬であったが、その時だけは紅藍が背に乗っても大人しかった。
 鞭をくれ、一気に加速し、西へ向かう。
 言われた通り、振り返らなかった。



 長年圧政に苦しめられてきた異民族達は、箍の緩みはじめた今、勢いを増している。
 苦しめられた分の仕打ちを全て返すよう、彼等が通った後は魁人の血で大地が赤く染め上げられた。
 それから数年、異民族の動乱は続く。
 終止符を打ったのは、彼の張紅藍である。

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