小さいが、戦場を自由に動き回れるよう軍を任された張韻のもとに、ある日一人の男が尋ねて来た。
 見た目はすらりと背が高く、やや厚着の着物の隙間から時々覗く腕はか細く白い。
 顔は綺麗で女かと見紛う程だが、いかんせん色が青すぎる。
 何処のモヤシかと張韻は眉根を寄せた。

「公徳様のお言い付けにより、紅藍殿の参謀を任される事になりました、蔡 盈(サイ エイ)字を満尚(マンショウ)と申します」

 男はそう言って頭を深々と下げる。
 参謀は良いとしても、この男では歳が若すぎやしないか。
 張韻は眉間の皺を深める。
 如何見積もっても張韻より年下、つまり二十歳そこそこであろう。
 そのような若輩モヤシに参謀が勤まるとは思えない。

「……公徳は何を考えてるんだか」

 張韻は溜息を漏らした。


 数日後。
 近くの村に、賊徒出没との情報があり、張韻が率いる部隊は討伐を命ぜられた。
 特別な訓練をし始めたばかりで、若干心許ない気はしたが、実戦経験を積む事は一番の訓練であろう。
 ただ、他にも心配事が無いではない。
 まず、例の参軍が馬に長時間乗れる体力の無い事が問題だ。

「紅藍殿、戦闘が予想される地域の地図を入手しました」

 ぱたぱたと、軽い足取りで現れたのはその蔡盈で、両手一杯に紙を抱えていた。
 その顔には笑みが浮かんでおり、場違いだと思えた。

「蔡盈、大義。先に地の利を得れば、少しは戦いやすくなろう……」

 張韻は巻物の一つを受け取り、紐解く。
 地図は八里程の範囲を詳細に記録されている。
 丘、小川、村落等々……。
 うん。なかなか。
 存外使えると、少し見直した。

「して、何か策でもあるのかね」

 張韻は肘を立て、興味を持った顔で蔡盈を見遣る。

「はい。賊は近くの村落を狙い、南へ動いているようです。彼の村落を救う為、早急に兵を発するべきかと――」

 うんうん、やっぱりそう来たか。
 賊を追わせる形を取るつもりらしい。
 今から軍を編纂していては、到底間に合わぬ。


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