耳元を、勢い良く矢が飛び去っていく。
 時折見事な軌道を描いて張韻目指してやってくる矢もあるが、対象を貫くより前にたたき落とされている。
 張韻の部隊が敵陣に到着する頃には、既に大混乱の真っ只中にあった。
 乕軍の特徴として、新たに編入した投降兵には、白い鎧を支給する。
 その白さは己の身の潔白を示し、戦場にあっては目立つ為、まず囮として使われる事になる。
 今回、魁の人間はその白い鎧姿であった為すぐ見分けがつく。
 張韻は声をかけつつ、事態の把握に努めている。
 「何があった?」と訊くが、たいてい返ってくる答えは同じだった。

「賀漣の奴、我々全員の首を跳ねろだなんて命令を下したんです」
「だからやられる前にやろうってな――」


 張韻は弓を放ちながら、内心、呆れた。
 梁玄は、やはり裏を読んで献言した。
 だがそこに許衍がもう一つ献言した。
 もとより決断力の欠ける賀漣は、そこで大いに迷い、あまりにも極端な結論に至ったようだ。

 向かい来る黒い鎧の兵を馬上から蹴り飛ばし、よろめいた所に矢を放つ。
 目を見開いて倒れ行く様を確認している暇も無く、次の矢を番える。一々、射貫いた敵の顔など覚えていられない。
 張韻は真っ直ぐ、敵兵を薙ぎ倒しながら陣の中央を目指した。
 目指すは賀漣の首、ただ一つ。


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