韻が瞳を開くと、そこには青空があった。申し訳程度に雲はあるが、快晴と言って良い空模様である。
 大きく息を吸う。
 今まで栄夐と戦っていたのではなかったか。
 韻は頭を押さえて半身を起こす。

「おっ、大将のお目覚めだ」

 聞き覚えのある声に振り返ると、視線の先には街道と、砦がある。
 竟閾関に戻っている。

「……私は」

 部下の一人に尋ねると、韻は馬から落馬し、そのまま暫く気を失っていたらしい。
 その間に部下達は手際良く賊と用心棒を虜にしたと言う。要した時間は一刻にも満たなかったそうだ。
 韻は首を捻りながら立ち上がり、馬に跨がった。
 馬上で不図左腕の疼きに気付き目をやると、はっきりと切っ先を引っ掛けた傷がある。……白昼夢にしては現実味のある夢だ。
 韻は一呼吸置いた後、馬を歩かせた。
 ……嫌な予感がする。

「この砦はもう他の部隊に任せても良いだろう。そろそろ我々は中央に戻るとしよう」

 韻は砦に戻ると、開口一番そう言った。



「決して戦は終わらぬ。戦乱は永劫続く。元凶である余と、そして人が、人であり続ける限りはな」
 

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