韻が勢いよく城壁から飛び降りると、下には黒い馬が待ち構えていて、丁度鞍の上に落ちた。
 目の前の重そうな木の門が開き、視界には彼方まで延びる道と、その両側に広がる森が飛び込んで来る。
 さらにその両脇には険しい崖がそびえ立つ。
 森の中には、数人賊の姿が見える。数は多くなさそうだ。

「矢に充分注意して進め。今日こそ賊を駆逐する」

 韻は整ったばかりの部隊を率い、門を飛び出した。
 鋭く辺りを睨め付ける。

「右翼に十、左翼にも十、私と共に中央へ五。剣を捨てた者には赦しを与えよ」

 後ろは振り返らない。
 部隊の振り分けはいつもの通り。
 前方にいるのはいつもの賊であろうが、後方にいるのはいつもとは違う手練れでのようだ。今回の強気は、その後ろ盾があってこその物だろう。
 この街道は狭い。大規模な軍を伏せておけるような場所も無い。
 早々に後ろ盾を叩けば終わらせられる。

「散開だ。敵は手足れ、心してかかれ」

 韻は馬上から指示を出し、再び辺りを見回す。
 時折矢が飛んで来るが、先程のような鋭い気配を纏っていない。
 嫌な予感がする。
 韻は弓を握る手に力を込め、ゆっくりと振り返った。

「さぁ、今だ!」

 その声の主を確認するよりも前に、韻の視界は急激に暗転し、馬から落ちて行くのを感じた。

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