「いやはや選択肢がやけに少ないね、お嬢さん。俺ならそんなふうに脅されなくたって、困っている人間をほったらかしになんかしないさ」

 男は両手を高く上げ、抵抗しない事を強調。背後の女からの返答はないが、背中に当てられる威圧感は大分軽減され、男はゆっくりと振り返る。
 そこにいたのは橙色の髪色で、すらりとした長身の女だった。
 照明に照らされた浅緑色のスーツには所々、赤い染みが見て取れた。

「お嬢さん、怪我……してるのかい?」

 男が尋ねるが、女は外方を向いて勝手に部屋の中へと消えて行く。

「ヤレヤレ……かくまってやるって言ってるのにあの態度はないよなぁ……」

 ベランダから部屋の中に入るとダイニングルームだが、木目がプリントされた机が部屋の中央に鎮座するだけ。男の独り暮らしではあるのだが、こざっぱりとした印象を受ける。
 女は机の周りをうろついているが、男は気にせずキッチンへと直行し、いつ入れたか覚えていない珈琲を大雑把にカップへと注ぎ込む。

「逃亡者さんに酒はマズイよな。生憎砂糖やミルクは切らしているが、我慢してくれよ」

 声を掛けるが、女から返答はない。仕方なく珈琲がなみなみと入ったカップを両手に、ダイニングへと運ぶ。
 女はある一点で足を止め、何かを見つめていた。

「お前は……軍人なのか?」

「うんにゃ。昔……16の時に調度例の大戦でな。志願兵だったのさ……軍人が珍しいのか?」

 女は壁にかけてあった一枚の写真を手にしながら振り返った。
 その写真は男が戦場で撮った一枚で、当時の上官と一緒に写っているものだ。

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