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◆2011/10/04 14:49 苦情x0
 下の階から小さな物音がする。

「そろそろ王女様がお目覚めかな」

 リーは立ち上がり、杯を店主に渡す。
 目覚めたからには何とかしなくてはならない事がある、と思案を巡らせながら、リーは階段を下りる。
 すると、下の階から小さな悲鳴が聞こえた。

「どうした?」

 ひょっこりリーは寝台を覗き込む。
 寝台の上で、ユリアンは自分の服をつまみ上げていた。
 服にはべったり血が付いている。
 さもありなん。
 昨晩の一件以降、すぐに眠り込んでしまった為、着替える余裕もなかったのだ。
 こうまで全身血まみれだと、服を血で染め上げるかしたほうが良いかも知れないが、普通に考えれば着替えるべきだ。

「服、用意してございます。サイズもピッタリのものです」

 すかさず店主が現れる。
 何処でサイズを調べたのかと問う間もなく、店主は二階へと戻っていく。

「寝台を汚してしまった」

 ユリアンは立ち上がりながら、そう小さく呟いた。
 服の血はどす黒く酸化しているが、今だ湿り気があり、ユリアンの掌も赤くべっとり濡れている。

「元から汚れとる。気にするな」

 リーはそこら辺のタオルを放って投げる。黒い汚れが目立つタオルだったが、手の血を拭う程度ならば問題なかろう。

「私の手は、もう拭っても落ちないほどの血で汚れた」

 ユリアンの台詞に、リーは鼻で笑った。
 その程度で何を言うか。

「服をお持ちしました」

 嬉々として店主が服の入ったらしい箱を持ってきた。


陛下と商人











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