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◆2011/10/04 14:48 苦情x0
 そろそろ夜が明ける。
 街の賑わいも酣となり、人込みは何処かへと消え始めた。
 夜の街の住人は、夜が明ければ、闇と共に何処かへ消えて行く。
 家に帰って寝ているのかも知れないが、日が昇っている間は一切人気を感じられない。
 あたかも、誰もが夜にだけ生きているかのようである。
 リーは武器屋の二階から酒を片手に外を眺めていた。

「ユリアン様は、よくお眠りになっておいでです」

 武器屋の店主が階段を上がってきた。
 眠りこけたユリアンを店主の小さな寝台に運び込んだ後、リーは暫く店を後にしていた。
 ユリアンが面倒事を起こした酒場をちらりと見に行ったのだが、案の定、何事も無かったかのように店は運営していた。
 この街での流血沙汰は、いつもの事なのである。
 手足を切り刻まれた男共は道端に転がされ、時期に餓えた子供や野犬に生きたまま喰われる事になるだろう。
 もしくは、黒いフード姿の一団に攫われて行くか……。
 黒いフードの一団の行く先は誰も知らず、何をしているかも不明である。
 そもそも、彼等に対して誰も興味を示さないのだ。後をつけ、正体を突き止めようなどと言った人間は全くいない。
 もちろん後をつけた人間もいたかもしれないが、帰って来た人間は一人もいないのだ。
 この街でリーは今回始めて彼等とすれ違った。他の街で出会った事はあるのだが、王都の近くでは始めてだった。
 この街の狂乱など、まだ可愛い物である。


陛下と商人











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