とある暑い日のこと
※ありがちな夏のネタ。ファンタジーなのに熱中症とか出てくるのは気にしない方向で。


「あっついーあーつーいー」

ぐでーとでも効果音がしそうなほど、ノエルは宿屋のベッドでだらしなく横たわっていた。今回、いい加減野宿が疲れたという理由から小さな村に立ち寄ったのだが、その宿屋というのがほぼ民家のようなもので、二つベッドが並び、小さな窓が一つしかないような所だった。

窓を開けてみるも、一つしかないものだから風通しはすこぶる悪い。外に出た方がマシなのではと思うくらいなのだが、こうして人目を気にせず横になれるのはこうした室内のみだ。人目、というよりイヴァンの目はあるのだが、長い間旅を共にしすぎたせいか、気にする事も無くなっていた。

一箇所に留まり続けるとシーツが生暖かくなってくるので、ごろんごろんと比較的冷たい場所を求めて転がりまわるノエルの様子に、イヴァンは思わず嘆息した。

「全く…外での緊張感は何処へ行ったんだか」

基本的に野宿をしているときは、いつどこから魔物が襲ってくるか分からないため、警戒心を持って行動していた。移動しているときは勿論だが、それ以上に夜は視界も悪く、疲れから眠気も襲ってくる。二人旅のために片方が睡眠をとり、もう片方が見張り役、という方式を取っているので、見張り役がうたた寝などもっての他だ。

ノエルは面倒くさそうにイヴァンから体を背け、パタパタと手を振った。

「緊張感はしばらく旅に出たので探さないで下さい。イヴァン、水取ってきてー暑くて動けないー」
「はいはい」

出て行ったイヴァンを目だけで見送り、ノエルは大の字になって木製の天井を見上げ、魔族を少し羨ましく思った。

魔族と人間との差からか、イヴァンはあまり暑さを感じる事がない。旅のときも、ノエルが気温の変化に振り回されていても、イヴァンは涼しい顔をしている。それに助けられた事も何度かあったが、それならば人間も魔族と同じ構造にしてくれよと一人ごちる。そうしてみたとことで、ノエルの体が突然変化を起こすわけではないが。

風魔法と氷魔法を使って周りの空気を涼しくするなんてことも思いついたが、その調整が面倒なのと魔力を保存しておきたいのと二つの理由で止めた。正直、殆どが暑さによりやる気を削がれたという理由なのだが。

そっと目を瞑ってみるも、取巻く暑さは全く変わらない。とめどなく流れる汗がうっとおしく乱暴に拭った。

「ほら、持ってきたぞ」
「……ありがと」

いつの間に戻って来たのか、イヴァンが片手に持ったカップをノエルに差し出している。起き上がるのも億劫に思いつつゆっくり身を起こし、カップの水を口に含んだ。温い。あの砂漠の冷たい水を思い出し、それがとてつもなく恋しくなる。

とはいえ願えば出てくるはずも無く、仕方が無いので凍り魔法で小さな氷の塊を作り、水に浮かべた。カップを回すように動かすと、カラカラと軽い音が鳴る。少しだけ、聴覚が涼しさを訴えた気がした。

冷たくなるまでそのままにしておこう、と何となしにイヴァンを見ると、やはり涼しげな表情をしている。こいつくっついたら実は氷並みに冷たいんじゃないかと思ったが、それはないということはすでに把握済みなので止めておく。

じっと見ていると、視線を感じたのか目が合った。と、同時にイヴァンが水を飲んでいないことに気が付く。

「お前、熱中症とか大丈夫かよ」
「…なんだそれは?」

イヴァンが小首を傾げたので、ああ知らないのかとカップを回していた手を止める。カラン、という心地いい音に目を細めた。

「暑い時に水分補給しないとめまいとかするやつ。あんま暑さ感じないんだから、余計に気をつけた方が良いんじゃねぇの?」

恐らく魔族の体は人間ほどやわに出来ていないだろうが念のため、とイヴァンにカップを差し出す。イヴァンは小さく頷くと、大人しくカップを受け取り口を付けた。

中身が半分ほどになって返ってきたカップを受け取り、ノエルもそれを口に含む。先ほどよりも随分と冷たくなった水はとても美味しく、一気に飲み干した。

ぷはーとおっさんくさいことをやりそうになり、押し留める。それをやるなら酒がいいだなんて考えているうちに、本格的に酒が飲みたくなってきた。しかし、本当に小さな村なので酒場すらあるか怪しく、悶々と唸っていると、イヴァンが小さく口を動かした。

「何だったか。ね、っちゅー……?」
「熱中症な」
「ねっちゅーしょー、ねっちゅうしょー……」

舌足らずな発音にくすりと笑いながら、ノエルは底に残っていた氷を口に入れる。歯を立てると、ガリガリという音と共に口内が冷えた。

イヴァンは基本的に子供のようだ。馬鹿なところもだが、なにより物事を知らない。

子供といえば、とノエルは遠い昔の事を思い出し、そして未だに子供のような熱中症を呟き続けているイヴァンに含み笑いを浮かべた。

誰に言われるでもなくそうしているのはイヴァンなのだから、問題ない。

そう判断したノエルはカップを置き、流れるような動きでイヴァンに近づいた。何の脈絡もなく距離を縮めてきたノエルにイヴァンが目を見開くと同時に、軽く唇を押し当てた。

一秒にも満たない程のキスだが、イヴァンは顔を真っ赤に染める。

「い、いきなりなんだッ……!?」
「え、イヴァンがちゅーしようって煩いから」
「そんなこと言っておらん!」

ノエルは、意地になっているイヴァンに向かって緩く首を傾け、妖艶に笑った。

「ね、ちゅーしよ……って言っただろ?」



‐‐‐
この後滅茶苦茶セックスした(嘘
すげーありきたりなお前中学生かよっていう熱中症ネタをやってみた。結果、ノエルが完全に攻めっぽい件。彼は受けです。まごうことなき受けです。いつになったらこんなにいちゃいちゃ(?)するのだろうか。
砂漠の水がうんたらかんたらはあんま気にしないで下さい。


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