2
天川が一通りのおかずを一口ずつ食べたのを確認して満足した俺は、今度はちゃんと自分の口へとおかずを運んだ。

「あぁ、もう……仁はズルイ」
「なんでだよ。俺のおかず一式は気に食わなかったか?」
「そうじゃないよ」

あぁ、これだから仁はとぶつぶつ言いながら、天川は盛大に溜息を吐いた。なんで俺が悪いみたいになっているのか。分からん。

何が悪いか教えてくれる様子が一向にないので、自分の世界へと入りかけている天川をスルーしつつ今度は白米を頬張る。米が美味しい。

しばらくすると、ふいに天川が顔を上げた。

「仁ってさぁ……結構面倒見いいよな」
「そうか?」
「うん。最初はさ、先生に面倒見ろよーって言われた時うわぁメンドクセ……って顔されたから凄い不安だったけど、説明とか凄く丁寧だからビックリした!」

思わず噎せた。大丈夫かっていいながら天川が背中を撫でてくれるけど、正直それどころじゃない。俺、そんなに露骨に顔に出てたのか。気をつけなきゃ。

「なぁ、仁」
「ん?」
「俺、ここに来て同性愛とかあるの知って、最初は俺には関係ないって思ってた」

偏見はないけど、自分自身になると違うだろうし。そりゃあな、保護者の都合か何か分からないが、突然常識がひっくり返るようなこの学園に来て、受け入れろだなんて難しいに決まっている。偏見がないだけ、まだマシだ。外にとってここは、異常って言ってもいいんだから。

だというのに、学園に来たばかりで天川は生徒会の連中に迫られてるから、その心労は測りきれない。俺には、どうすることもできないのだけど。

「でも、お、俺、す、好きな奴が出来たんだ!」
「……まじか」

前言撤回。心労なんて無かった。天川すげえ。適応早すぎんだろ。けど、俺に出来る事が一つ出来た。天川を応援する事だ。ところで、天川の好きな人って一体誰なのだろうか。生徒会の誰かだったら、もう告白するだけで事が済んでしまうのだけど。

「で、好きな人って?」
「そ、それは……」

あー、うーと唸りながら、天川は一向にそいつの名前を言おうとしない。そりゃそうだ。友達といえど、好きな奴の名前を言うなんて緊張するに決まってる。

しばらく目線を左右に巡回させると、天川は意を決したように俺を真っ直ぐに見つめた。

「実は、俺……」
「うん」
「俺、仁の事が……好きなんだ!」

まるで、足がついていないように心許ない感覚がした。

今、天川は何て言った?好きだって?うん、それは分かる。問題なのは誰が、だ。俺の耳が間違っていないなら、仁、つまり俺っていったけどいや、もしかすると生徒会の誰かに仁って人……聞いたことが無い。

だから、これは多分、そういう事で。

「……え?」

きーんこーんかーんこーん。音が鳴った。あぁ、チャイムだ昼休みも終わりじゃないか。早く教室に戻らないと。でも、天川と?こんな状況で?

「お、俺、先に戻ってるから!!」

動かない俺に対し、口早にそう言うと、天川はビニール袋をがさりと握り締め、顔を真っ赤に染めながら走り去っていった。

けれど、俺は座ったまま何も出来なかった。教室に戻る事さえも。戻ったら、隣に天川がいる。気まず過ぎるったら無い。天川のことが好きかと言われれば肯定できるが、それが恋愛的な意味かといったらそうではない、と思う。そもそも誰かを恋愛対象として好きになった事がないような奴だから、どうなのかすら分からない。そういうことを避けてきてしまった自分が今更ながらに腹立たしい。

こういうとき、どうすればいいのかが全く分からない。

「サボるか……」

午後の授業をサボる事に決め、気晴らしに裏庭でも行こうと立ち上がる。金持ち学校なだけあって、ここの裏庭は広くて落ち着く。時折下のクラスの不良も使っているらしいが、広いのだから大丈夫だ、多分。

昼休みとは打って変わって閑静な廊下を歩くと、靴の音が小さく響いた。教師に聞こえないように、なるべく音を立てないように歩いていると、曲がり角に差し掛かったとき、目の前を誰かが立ち塞がった。

「月岡仁。顔貸して」

今日はどうやら、厄日だったらしい。


prev next

bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -